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『ハートフルサッカー in ブータン』サッカーを通じた草の根での交流

浦和レッズハートフルクラブは、『ハートフルサッカー in ブータン』(主催:浦和レッズ、共催:国連の友アジア-パシフィック、協賛:三菱自動車工業株式会社)を9月23日(火)~25日(木)の3日間、ブータンの首都ティンプーで5回行い計258名の子供たちとサッカーを通じた草の根での交流を深めました。

ブータンは、インドと中国に挟まれたヒマラヤにある敬虔な仏教国。九州ほどの広さの山間に約73万人が住んでいます。2011年の東日本大震災の後、第5代のワンチュク国王が義援金を携え来日し、お見舞い及び連帯を伝えたことで、ブータンは日本でも有名になりました。国内総生産(GNP)と対比する概念として国民総幸福量(GNH)という独自の概念を提唱していることが世界的にも知られています。

訪問にあたっては在東京ブータン王国名誉総領事館が全面的に準備に協力していただきました。『技術だけではなく心を育む』ことを最大のテーマに活動しているハートフルクラブですが、今回、サッカーを通じた幸せづくりを目指すハートフルクラブと、国を挙げて幸福を追求するブータンが融合する機会が実現しました。



バンコク経由の深夜便でブータン・パロ空港に降り立ったハートフルクラブの落合 弘キャプテンと、城定信次、石黒琢也、宮沢克行、酒井友之の4コーチは、仏教の聖地のひとつでもある寺院パロ・ゾンを訪問後、ティンプーのチャンジジグラウンドに直行。交流のスタートは、日本から派遣されている小原一典監督が指導するブータンU-17代表選手となりました。



育成世代とはいえ代表選手であることから、どのような指導をするか検討しましたが、結論は日本と同様、対話や思いやりの大切さを伝えることになりました。恒例の落合キャプテンの講話後、コーチたちが実技を指導する形式です。16~17歳の20名に対し、落合キャプテンは特に「ワールドカップはじめレベルの高い大会で最後に重要なのは心であることを肝に銘じてほしい」と強調していました。

グラウンドは2005年にFIFAから寄贈された人工芝のピッチ。指導をリードする城定コーチは『元気さ』『思いやり』を求め、ペアで協力することが求められるものなどさいたま市内の小学生たちを指導するのとほぼ同じメニューを提供していました。これに対し選手たちは、一つ一つを楽しそうな笑顔を見せるだけでなく、大声を掛け合いながら取り組んでいました。人数ゲームと呼ばれるミニゲームでは、両チームの応援合戦が白熱。点を取るたびに様々な喜び方を表現し合うなど、選手自らがハートフルクラブスタイルの楽しみ方を実践していました。大声の応援が谷間のグラウンドにこだまし、50名ほどの見学者も集まる盛況ぶりとなっていました。

選手の1人トッデン君は「いつもと違うメニューでとても楽しかったです。はじめは楽しく応援していましたが、試合では大声を出しながら真剣勝負でプレーできました」と感想を話していました。城定コーチは「この年代のしかも代表選手がここまで盛り上がってサッカーに取り組むことに強く驚いています。日本では想像できないことです。U-17の選手に限らず、目が合えば笑ってくれる、こちらから何か伝えれば返ってくる、ということの連続で、心から向き合ってくれていることに感銘を受けました」と振り返っていました。

翌24日は午前にチャンガンガ中等初等学校を訪問し小学5~6年生計75名とサッカーに取り組みました。ブータンでは多くの場合、毎日朝礼が行われており、コーチたちも出席しました。校長が仏教に関して説法し、全員でお祈りを行うなど、仏教が生活のベースとなっていることをうかがわせていました。



落合キャプテンは講話で、東日本大震災についてのワンチュク国王の励ましに謝意を示すとともに、一生懸命に生きている被災地の子供たちの姿を紹介。チャンガンガの児童たちにも一生懸命に生きることの重要性を訴えました。児童たちは、落合キャプテンの話に時に大きく頷くなど話の内容に同意する表情を見せていました。







その後、宮沢コーチがリード役となり、鬼ごっこや、サッカーボールのキャッチボールなど楽しく元気にサッカーが出来るためのメニューを行いましたが、前日以上に児童たちは盛り上がりで、先生たちも強い関心を示していました。民族衣装であるゴ(男性用)、キラ(女性用)を着用してのサッカー。いずれもスカート状になっており、ボールが蹴りにくいようにも見えますが、障害を乗り越えクラスメートと共にサッカーボールと戯れていました。



最後のミニゲームは男女別に分けて実施。緑チームはエーマ(青唐辛子)、オレンジチームはツェール(みかん)と名付けると、両チームが「エーマ!エーマ!」「ツェール!ツェール!」の大合唱。女子児童たち、初めてサッカーに挑戦する児童も一生懸命にボールを追いかけ、試合を待つチームメートたちは大声で仲間を励ましていました。

サンゲーフンソー君は「コーチは優しいし、楽しんでサッカーができましたし、友達とも一緒に体を動かせました」と目を輝かせていました。宮沢コーチは「幸福の国という中でも当然のことですが個人個人に違いがありました。ただ、最初の自己紹介の時にこれまでになくリラックスした感覚に包まれました。セッションの最後ではなく最初の挨拶の段階で清められた感じになったのは確かです。子供たちは、相手のことを思いやるということが既に身に備わっていると思いました。一方で勝負にはこだわっており、女の子たちが民族服でボールを追いかける姿が印象的でした」と感想を話していました。

午後はペルキル私立学校を訪問しました。中学1~高校1年生の計53名の男子生徒に対し落合キャプテンが「ブータンは世界で最も幸せな国と思いますか?」と質問すると全員が手を挙げました。首都ティンプーは情報化や経済発展が続いていることを念頭に、「世の中にはお金では買えないものがあります」と心の大切さを改めて訴えました。




実技をリードしたのは石黒コーチ。ミニゲームに適したゴールがないため木の棒とコンクリート塊でコーチたちが即席でゴールを造ってのセッションとなりました。午前とほぼ同様のメニューを提供すると、ここでも児童たちは元気に大きな声を上げて仲間と一緒にボールを追いかけ続けていました。石黒コーチはセッションの後、「宗教的な面がベースにあるとは思いますが、普通に暮らしていること自体が幸せであることを彼らは知っていると思います。個人差はあっても、だれが来ても疑いを持たずに歓迎する姿勢が根底にあると感じました。私立学校の子供たちの素晴らしい反応は日本では考えられないものでした。ブータンでハートフルクラブが目指すゴールを見たような気がします」と語っていました。

最終25日は小学校を2校訪問しました。午前に訪問したジグメロゼル小学校では4~6年生の男女50名が参加。コーチたちが学校に到着すると荷物運びを手伝ったり、教室を案内したりと歓迎ムード一色となりました。コーチたちはサッカーボールやけん玉、そしてほとんどすべての児童が流暢に話す英語をツールにコミュニケーションを図り、指導の前からあちこちに児童たちに囲まれるコーチの姿がありました。





落合キャプテンの講話の後、再び城定コーチがリード役で実技を指導。開始前から交流が進んでいたこともあり、参加できることになった児童たちは、すべてのメニューに目を輝かせて取り組み、盛り上がった状態で終盤のミニゲームに突入。プレーをする時は一生懸命に走り、待機している時は仲間に大きな声で声援を送り、グラウンドは熱気で溢れました。セッション終了後には、ほかの児童たち数百人がグラウンドに現われてコーチとのおしゃべりするなど最後まで幸せで暖かい空気の中で時間が進みました。参加した児童が謝意を表す歌を何曲も即興で披露し、別れを惜しみました。



最後のセッションとなる午後、リンケンクエンフェン小学校では4~6年生の60名がコーチたちを待ち受けていました。落合キャプテンは「優しい心、強い心を持ってください」と講話、リード役を担当した酒井コーチが優しく児童たちをリードし始めると、今回も児童たちはでこぼこのグラウンドにもかかわらずすべての状況を楽しむかのような満面の笑みでメニューに取り組んでいました。ミニゲームでは参加していない他の児童100名以上が応援団として参加。ゲームの会場となったバスケットボールコートからは大歓声が上がり続けていました。

担当教諭の1人は「指導の仕方も勉強になりましたし、子供たちの新たな顔も見ることができました。毎年訪問してもらい、交流を続けてもらえれば嬉しいです」と感謝の意を述べていました。酒井コーチは「東南アジアにもいましたので、子供たちの反応は東南アジアに似ていると思いますが、こちらを見つめる顔がどれも人懐こかったです。コーチとして初めてのアジアですので比べにくいですが、日本では経験できないような反応を見ることができました」と感想を話していました。



終了後、前日のセッションに参加していた女の子2名がコーチたちに近づいてきました。「また会いに来てくれますか?今度はいつ来てくれるのですか?」。そう聞くと、コーチたちのバスが見えなくなるまで手を振って見送っていました。

【落合 弘ハートフルキャプテン】
「ハートフルクラブが目指す姿、その原風景のひとつがブータンにはあったと言って良いと思いました。幸せの国と言えるのは、宗教観にも基づき政府がGNHという概念を掲げ、それが浸透したからだと思います。小さな思いやり、小さな幸せをを一生懸命、真剣に国民の皆さんが積み重ねてきたことが大きいのではないでしょうか。ブータンにも問題はあるでしょうし、これからは経済発展や情報化の波が押し寄せ、難しい時代になるでしょうが、抑圧する形ではないブータンスタイルで幸せを追求してほしいと応援したいです。スポーツをする者としては、スポーツ施設をしっかりと造ることは大切だと思いました。私たちは幸せを実現するため、継続することが重要ということを再確認できました。様々な環境の違いがあるので日本で実現することはなかなか難しいでしょうが、これからも小さいことを一生懸命積み上げ続けていきたいと強く感じました」

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