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フィンケ監督「オーストリアキャンプ、ワールドカップ、ドイツ代表」から現代サッカーを説く
2日前、7月4日(日)のトレーニング後に行なわれたフィンケ監督の記者会見。オーストリアキャンプを経て、久しぶりにフィンケ監督がメディアに対応する機会とあって、質疑応答では、チームのキャンプの成果や、ワールドカップ 南アフリカ大会、そして見事な戦いぶりでベスト4に進出しているドイツ代表等に質問が及び、フィンケ監督は、自身の分析やさまざまな事例を取り上げながら、世界サッカーの情勢、日本代表の戦いぶり、現在のドイツサッカー飛躍までの取り組みなどについて、詳細に答えていきました。
【質疑応答】
(今大会のワールドカップは守備的な面が目立つ試合が多いと言われてますが、監督の目にはどう映りましたか?)
「ただし、その守備的なサッカーをするチームはもうみんな敗退しています。とても守備的なサッカーをすることによって、短期的な成功を収めることができたチームがいくつかありました。例えば、スイス代表も一度だけスペイン代表を相手に勝利を収めることができました。しかし、そのようなサッカーを展開していたチームが、準決勝まで残ることができたわけではありません。現時点で残っているチームは、まったく違うサッカーをしているチームです。そして、準決勝に残った4チームのうち、オランダ、スペイン、それからドイツのチームがボール・オリエンテッドなサッカーを展開して成功を収めています。これはとても喜ばしいことです。
グループリーグでは、いくつかのサプライズの結果もありました。前回の大会で優勝したイタリアと戦ったチームがそうですし、フランスと戦ったいくつかのチームがいい結果を残すことができました。しかし、このイタリア、フランスの2チームは、前回大会でのチームから今回のチームへ向けての世代交代を進めることができなかったから、今回のような結果になったのです。どのようなチームでも、2年前、3年前、4年前に大きな成功を収めたとしても、常にチームの中の競争状況を保たなくてはなりませんし、どうしても選手の入れ替えというのが必要になってきます。それは、新しい刺激を与えるため、そしてチーム全体を成長させるためです。過去に優れた結果を残しても、今日、成功を収めることができるという保証はないわけですから。
イタリアやフランスは、このような積極的な強化、そして新たにチームに刺激を与えることを実現できなかったのです。グループリーグのある試合で、イタリアがピッチに送り出した選手のうち9人が2006年の決勝戦の先発メンバーでした。そして、監督も変わっていません。当時と同じ監督です。それだけ経験豊富な選手が集まったにもかかわらず、彼らはひどいプレーをしました。そして、結果を残すこともできなかったのです。
今回の大会でも、一つのことが証明されたと思います。それは、どのようなチームであろうと、新しい刺激、新しいライバル状況、そして選手の入れ替えというものを常に行なわないと、長期的な成功を収めることはできないということです。
ドイツ代表は、2006年のチームをさらに成長させることに成功しました。たくさんの新しい選手を入れて、そして平均年齢も2006年より一気に下がりましたし、とても新鮮な新しい若い選手たちがチーム全体にいい刺激を与えたのです。
スペイン代表は、2008年のころに本当に素晴らしいチームを作り上げて、素晴らしいプレースタイルを実践して結果を残しました。しかし、今回の大会では当時のレベルをキープするのに少し苦労しているところがあります。わずか2年のことかもしれませんが、たった2年間でそれぞれの選手の状況というのは変わってくるわけです。選手は2年分、年を取るわけですし、体の回復スピードは遅くなります。当時の主力だった何人かの選手たちが、現在でも優れた選手であることは間違いないですが、いくつかの問題を抱えています。フェルナンド・トーレスは膝が痛いと言っています。イニエスタも軽いケガをしています。しかも、彼らのピッチ上での回復力は2年前ほど優れていません。そういう意味では、全体的に当時のレベルを保つのに少し苦労している状況だと思います。ですので、今回の準決勝、スペインはドイツ代表と当たることになりましたが、もしかするとドイツ代表にもチャンスがあるかもしれません。
そして、ブラジル代表とアルゼンチン代表が敗退してしまったのは、とても残念です。このようなチームはとても魅力的なチームですから。ただし、彼らの状況はしっかりと分析しなくてなりません。彼らは、最終的には彼らのチームに所属しているスーパースターが優れたコンディションを保って、優れたプレーを見せてくれることを願っていたのでしょう。しかし、これらの選手がしっかりとした形で実力を発揮できないと、彼らでさえ敗退してしまうのです。
ですので、今回の大会で起きていることは非常に興味深いことです。そして、私はこれはとても素晴らしいことだと思いますが、一つのコンセプトを持って、しっかりとした練習を積んで、魅力的なコンビネーション・サッカーを展開しているチームが準決勝に駒を進めたということ。少なくとも、準決勝に残った4チームのうち3つのチームが、このような魅力的なサッカーを展開しています。しかし、そのような形で成功を収めるには、長期にわたって継続的な仕事をしなくてはなりません。そして、ピッチに立っているすべての選手たちが、この哲学が自分たちにとって最も正しいものである、そしてこのやり方で成功を収めることができると強く信じなければなりません。ピッチに送り出された選手のうち、2人もしくは3人の選手がまったく違う考えを持っていて、自分たちはまったく違う哲学を持ってサッカーをやるんだと自分勝手なサッカーをしてしまうと、チームとして勝利を収めることができなくなってしまいます」
(ワールドカップの関連が続きましたけど、日本代表がベスト16へ進みまししたが、フィンケ監督の感想は?)
「細かいことについてお話しするのは控えたいと思いますが、決勝トーナメントで最終的にPK戦で決着がついたパラグアイ戦に関しましては、国際的な評価からすれば、あの試合はとてもひどいものだった、醜い試合であった、というふうに強く批判されていました。しかし、私はそこまでひどいものであったとは思っていません。忘れてはならないのは、両方のチームが、それまでの歴史上成し遂げることができなかった成功を収めることができる、という状況に来ていて、ピッチに立っているすべての選手がとても高い緊張感の中で戦っていたということです。そして、今回の大会で日本代表チームがグループリーグを突破したことは本当によかったことだと思っています。なぜならば、これは日本のサッカーの将来的な成長のためにもなると私は考えているからです。
そして、デンマーク戦で2度パーフェクトな形でFKのゴールを決めることができました。2つのFKが、あの試合で勝利を収めることができた要因だと思いますし、あの2つのゴールが最終的にはグループリーグを突破する最後の扉を開けることになった鍵だったと思います。そして、今回グループリーグを突破したことによって、国際的なリスペクトを日本のサッカー界は得ることができたと思います。ですので、日本のサッカー界は、この国際的なリスペクトを日本のサッカーをさらに成長させていくために、うまく活用していかなくてはならないと考えています」
(阿部選手にフォーカスすると、阿部選手の活躍はどう映りましたか?)
「まずワールドカップの直前の状況についてですが、直前になって代表チームの方針が変わって、自らゲームを組み立てていく、展開していくというサッカーではなくて、守備的なコンセプトを持ちながらプレーして、ワントップで試合に臨むことになり、しかもこのワントップというのは中盤の選手だった。このような状況になったため、阿部が先発のメンバーに選ばれるようになりました。ワールドカップ直前の親善試合では、日本代表チームが優れた結果を残すことができていませんでした。ですので、直前になってまったく違うコンセプトを持って本大会に臨むことになったわけです。それによって、阿部が先発のポジションを得ることができました。そして、すべての試合で彼はとても優れたプレーを見せたと思います」
(今回のワールドカップでは4-1-2-3というか4-3-3のシステムを採用するチームが結構ありました。オーストリアキャンプでもそのような形を試されたという話を聞きましたが、監督としてはどのあたりに可能性のあるシステムだと?)
「まず解説になりますが(笑)、4-2-3-1のシステムのときでも、攻撃のときには4-3-3になります。そして守備のときになると、はっきりと4-2-3-1という状況が見えてきます。そして、現時点の国際レベルでとても優れた結果を残すことができているチームは、ほぼすべて4-3-3のシステムでプレーしています。スペイン代表は2年前までは4-1-4-1のシステムでプレーしていましたが、現在ではビジャとフェルナンド・トーレスの2人がいて、彼らがツートップ的に動いています。ですので、現在の彼らのシステムは4-4-2ということもできるでしょう。
それから、現時点でこのような、1枚の前線の選手がいて、守備のときにも1枚だけが前線に残って次の攻撃に備えるやり方でプレーしているのがドイツ代表です。ドイツ代表はとても大きな自信を持って、そしてすべての選手たちが、『これが自分たちのやり方だ』と信じてプレーしています。
この4-3-3のシステムのときには、一つのメリットがあります。これは実際にドイツ代表が実践していることですが、ボールを失って守備の状況になって、相手のボールホルダーに対してプレッシングにいくときに、それほど選手と選手の間の距離が遠くないということです。
そして、私は、確かに紙の上で4-2-3-1という形で選手の名前を書くかもしれませんが、それはあくまで土台となるものであって、攻撃の際に前線にボールを出した場合は、必ず中盤の2人の選手のうち1人が攻撃に参加しなくてはいけないのです。ですので、必ずしも紙の上で4-2-3-1と書いてあるからといって、すべての状況で2人のボランチの選手が中盤の底で構えているわけではありません。
ドイツ代表でも、一応、シュバインシュタイガーが、紙の上ではボランチの1人として書かれています。しかし、彼が伝統的な、守備的なボランチのプレーをしているわけではありません。彼はとても優れた選手ですし、確かにいわゆる『6番』のポジションのエリアでプレーしていますが、相手の攻撃を潰す、もしくは守備的な役割だけをこなす選手ではなくて、とても優れたサッカー選手として、あのポジションから攻撃的な姿勢を見せながらプレーをしているのです。
根本的にまず大切なのは、どのような哲学を持ってプレーするかです。ボール・オリエンテッドなプレースタイルを実践するという哲学があれば、ピッチ上でボールがどこにあるかを確認して、チーム全体でスライドしていくわけです。ですので、そのような状況で自分たちのシステムが4-4-2であろうと4-3-3であろうと、もしくは4-2-3-1であろうと、それほど大きな変わりはありません。大切なのは、どのような哲学を持ってプレーするか、なのです。
昨日、ドイツ対アルゼンチンの試合がありましたが、あの試合を見れば、いかにサッカーがこの20年間にわたって変わってきたか、発展してきたかはっきり見ることができたと思います。1990年の試合では、当時の西ドイツ代表だったギド・ブッフバルトが守備的なMFとしてマンツーマンでアルゼンチンの10番、マラドーナを試合を通してずっとマークして、マラドーナがどこに行こうと付いていったわけです。当時の役割を、ブッフバルトはとても優れた形で実践しました。マラドーナは、まったくアルゼンチンのチームにいい影響を与えることができなかったのです。
しかし、昨日の試合を振り返ってみてください。20年間の間に、いかにサッカーが変わったかがはっきりと見えてきました。今のアルゼンチン代表には、当時と同じようにとても優れた選手がいます。それはメッシです。しかし、メッシは試合の状況によって、ポドルスキーと1対1の状況があったり、メッシが中盤の底に入ってきたときにはシュバインシュタイガーと当たったり、ケディラと当たったり、もしくはドイツ代表のセンターバックであるフリードリッヒと当たったりしていました。それぞれのポジションでメッシを受け渡しながら、メッシに対して圧力をかけていたわけです。そして、さまざまな状況でメッシに対して1対1ではなく2対1の状況を作りだしていました。これが当時との違いの一つです。当時のサッカーでは、1人のとても優秀な選手を90分間マークする役割を与えられた選手が存在しました。しかし、そのような選手は今日のサッカーでは存在していません。
今回のドイツ対アルゼンチンの試合を見ながら、監督としてタッチライン際にいたマラドーナのことを見て、当時のことを思い出しました。1990年のワールドカップ決勝のローマでの試合のときには、マラドーナが少しでもカメラに映ると必ずそこにはブッフバルトもいたのです。どのような状況でも、マラドーナにはブッフバルトが付いていました。そして、ブッフバルトは90分間、マラドーナに付きっきりでマークし、彼を押さえ込むことに成功したのです。しかし、今日のサッカーでそのような役割を与えられた選手はいません。90分間、1人に付きっきりで1人の選手だけを押さえ込むこと、このような役割を与えられた選手は、今日の現代的なサッカーでは存在することができないのです。この例を見れば、サッカーが戦術的にどのような形で発展してきたかを見ることができると思います。
昨日の試合は、本当に興味深い試合でした。そして、ドイツ代表がとても優れた試合をしていました。もしかしたら、皆さんもドイツ代表の試合をご覧になったかもしれません。ドイツ代表がプレーしているゲームの内容は、一昔前まで多くの人間が『これがドイツのサッカーだ』と言ったような、古い物ではありませんでした。今日の朝、私がスペインの新聞のウェブサイトを見たら、こう大きく書かれていました。『現在のドイツ代表は、昔のドイツ代表ではない。全く違うサッカーをしている』。
これは、私たちにとってもとてもうれしいことです。私は当時、ドイツ・ブンデスリーガの一員として、根本的なさまざまな育成部門、それからコンセプトの改革に携わった人間の一人です。さまざまな改革を行なうことによって、長期的に再びドイツサッカーがとても優れた結果を残すことができるようにさまざまな準備をしたのです。そして、その改革が実って、2006年以降、ドイツサッカーの代表チームが再び優れた結果を残すことができるようになりました。
そして、とても興味深かったのが、昨日試合に出た(ドイツ代表の)すべての先発メンバーがドイツ・ブンデスリーガでプレーしているということです。これはとても興味深いことです。ドイツ・ブンデスリーガでも、とても優れた仕事が進められている。そして、現時点では、国際的に見てもドイツ・ブンデスリーガがとても優れたレベルにあるということを、昨日の試合が証明してくれました。本当ならば、昨日のメンバーにミヒャエル・バラックがいてもおかしくありませんでした。彼はチェルシーでプレーしているわけですし、いわゆる『外国でプレーしている選手』になります。しかし、彼がケガをした事情もあって、昨日の先発メンバーはすべてドイツでプレーしている選手たちでした」
(今のような解説を選手にもする機会はなかったのですか?)
「選手たちは、さまざまな情報を私から得ています(笑)」
(じゃあ、そのうちレッズにもシュバインシュタイガーみたいなプレーをする選手が?)
「いや、そういうわけではありません。しかし、大切なのは私たちが勇気を持って、そして信念を持って、このコンビネーション・サッカーを実践していくこと、そしてクラブがこのコンビネーション・サッカーをさらに成長させていくということです。確かに、どのようなチームでも、ある一定の期間にわたって成功を収めることができなかったり、敗戦が続くときがあります。しかし、そのようなときでも、自分たちの信念を曲げず、貫くことが大切なのです。
しかし、結果が伴わないと一部の外部の人たちが余計なことを言ってきたり、批判的なことを言ってきて、私たちのこのプレースタイルに対しても、とても批判的なことをあちこちで言って持論を展開する人もいます。しかし、私たちはクラブの一員として自分たちの信念を曲げず、自分たちのやっていることを信じて、これをさらに発展させていくことが大切なのです。そうすれば、必ず結果も伴いますから。そして、今回の国際大会のようなとてもレベルの高いところで、このようなサッカーが結果を収めているということは、私たちにとってもとても大切なことなのです」
(先ほど育成年代に関わっていたと仰っていましたが、具体的にはどのようなことを?)
「当時、1990年代の終わりのころ、ドイツA代表はさまざまな国際試合でとても悪いパフォーマンスを見せていました。大きな国際大会でとても恥じるような、ひどい結果を残したのです。そして、2000年にベルギーとオランダで開催されたヨーロッパ選手権において、ドイツ代表はグループリーグで敗退してしまいました。しかも、グループリーグの最後の試合で、私たちはポルトガルのBチームに大敗してしまったのです。そして、ちょうどこの期間、フランスはとても優れた代表チームを保持していて、とても質の高いプレーを見せていました。
私たちは当時、自分たちの国の育成改革を進めるために、さまざまな国のいいところを取り入れていこうと考えました。そして、私が住んでいたフライブルクからフランスの国境が非常に近いこともあって、何度も何度もフランスに行っていましたし、フランスの優れたものを積極的に取り入れていこうと考えていました。そしてフランスでさまざまな育成部門の改革に携わって、特に育成のために必要なエリート教育の寮のシステムを作り上げたギー・ルーという監督とも私は定期的に連絡を取り合っていました。私たちは定期的にドイツとフランスを行き来して、さまざまな交流の場を持ちました。そして、部分的に提携関係を結んだところもありました。それによって、私たちは何度もフランスのエリート教育の代表的なシステムである、国立エリート育成アカデミーを見学しました。当時、フランスではすべての1部と2部のクラブがこのようなエリート教育を行なわなければならなかったのです。このようなところでは、さまざまな施設・センターが整えられ、すべての才能溢れる選手たちが毎日質の高い練習をこなすことができる環境が整えられていました。そして、国が金銭的に援助していたこのような育成センターというものが、フランスの全州に存在していたわけです。12歳、13歳、14歳の将来性溢れるこどもたちは、平日は毎日学校に通いながら、とても質の高い練習をしていました。そして、週末だけ実家に戻ることができました。その中で最も優れていた選手たちが、そのクラブの中でのさらに上のカテゴリーに昇格することができて、優れたプロ選手に成長していったのです。
私たちは、ドイツでもこのような形でのエリート教育を実践できないかと、さまざまな考えを持って実践しようとしました。そして、このようなドイツでの育成改革を進めるための委員会が設立されました。その中に3人のブンデスリーガの監督が選ばれました。それが、フェリックス・マガト、ハンス・マイヤー、そして私でした。それ以外にも、この委員会にはさまざまなクラブのGMやサッカー協会の代表、そしてサッカー協会で仕事をしている育成専門の指導者もいました。この委員会ではさまざまなことについて議論が交わされました。そして、そのときに決まったのは、ドイツのプロのレベルに所属したいクラブは、必ず優れたエリート教育を実践する育成部門を作り上げなくてはいけないということ。それから、すべてのアカデミーでは、しっかりとした教育を受けた教育者が存在しなくてはいけない、ということでした。単純に『元プロの選手たちに育成部門で指導する機会を与える』、そのようなことでは駄目だということをはっきりと伝えたのです。
そして、スポーツ生理学に詳しい専門家や若者たちの教育学、心理学に詳しい専門家などが各アカデミーに所属して、さらに、各クラブで優れた育成が行なわれているかどうか定期的に協会が確認しました。そして、すべてのクラブが育成アカデミーを運営するときには、すべてのクラブがドイツサッカー協会に対して『私たちはこれだけの優れた選手育成をしています』ということを毎年証明しなくてはいけない状況になったのです。
それから同じ時期に、ドイツ中に、日本で言われている『トレセン』が作られました。そして、各州のみではなく各地域にそのようなセンターができたことによって、その地元に住んでいるとても優れた若い選手たちは、週に何度もそこで質の高い優れた練習をすることができるようになったのです。そして当時行なったこのような全体的な改革によって、とてもたくさんの若い優れた選手たちが育ってきました。そして彼らが今の代表チームでも活躍しているのです。現在の代表チームで活躍している選手は、ほぼ全員このコンセプトで成長してきた選手たちです。彼らはそのようなしっかりとした教育を受けているのです。幼いころから優れた練習をこなすことができただけではありません。さまざまな教育的なアプローチも受けています。例えば、とても若いころから、いかにメディアと付き合うかということも学んでいるわけです。
ですので、このような根本的な改革に携わった人間としてみれば、今回のようなドイツ代表の結果はとてもうれしいものです。しかし、それと同時にあることを理解しています。それは、このようなものをさらに改善していかなくてはいけない。さらに成長させていかなくてはいけない。でないと、継続的な成功を収めることはできないということです。
2000年にアーセン・ベンゲルがあるインタビューでこう言いました。『私たちフランスは、優れた育成により、他の国より10年進んでいる』と。今、現時点であることを言うことができます。それは、当時フランスが言っていた『10年先を進んでいる』という事実は、もうなくなってしまった、と。私たちが追い越したということです。フランス代表チームでは、とても大きな成功を収めたことによって、一部の選手たちが必要以上に代表チームに残るようになってしまいました。そして、新しい刺激を与えなくてもなんとか結果を残せるだろうと勘違いしてしまったのです。
しかし、これがサッカーのとても興味深いところではないでしょうか。
2年前、3年前にどんなに優れた結果を残したとしても、今日とても優れたパフォーマンスを発揮できる保証は存在していないわけです。ですので、どんなに有名な過去に実績を残した選手であっても、プレーの質がよくなかったり、パフォーマンスが悪ければ、他の選手を入れてチームに新しい刺激を与えていかなくてはならないのです。そうでないと、チームの継続的な成長、それから長期的な成功というのは成し遂げることができません。
そして、私たちのドイツ代表チームは2006年以降、さらなる世代交代が進んで、多くの新たな若い選手たちがチーム全体にとてもいい刺激を与えて、チームの総合力を上げることができました。しかし、今後どうなるでしょうか?私たちも気を付けなくてはなりません。この成功が継続的なものになるように。
そして、次の試合、準決勝ではスペイン代表とドイツ代表が当たることになります。これは2年前のヨーロッパ選手権の決勝の組み合わせです。これはあくまで、もしかしたら、ということですが、もしかしたら、ドイツ代表が今回の試合ではスペイン代表を相手に勝利を収めることができるかもしれません。そのような可能性はあると思っています。しかし、私たちはあることを忘れてはなりません。それは、私たちはスペイン代表をとてもリスペクトしているということです。すごく残念なのは、日本では、この試合が夜中の3時に行なわれるということです(苦笑)。そういう試合を見てしまいますと、午前の練習ではとても疲れるんです(苦笑)」
(話は変わりますが、明日のザスパ草津戦の後、韓国へも行くんですが、この夏場の間に、時間をすごくキチキチというか有効に使っていて、選手は相当ハードですが、そのあたりの狙いというのは?)
「私個人的には、その時期にレベルの高いチームと対戦したかったということだけですし、それ以外はすべてクラブが手配したことですので。本当なら、非公開の試合ということで、一番近くにある大宮と対戦することもできましたが、その数週間後に私たちは大宮と当たってしまうので、今回のタイミングでは彼らと対戦することはできませんでした。そして、正直に私は話しますが、この対戦相手を選ぶ作業に関しまして、私は一切絡んでいませんので、この件に関しまして、それ以上はお話できません。しかし、私たちが今回アウェイで試合をするということに関しましては、一切反対しませんし、私たちが電車に乗って大阪に行ったとしても、飛行機で韓国へ行ったとしても、それほど移動時間は変わりませんから。
しかし、非常に残念だと思っているのは、私たちは韓国のホテルでワールドカップの決勝戦を見ることになるということです(苦笑)。とても不思議な感覚です」
(山田直輝と梅崎は向こうでも試合に出てますが、もう実戦には問題ないということですか?)
「彼らがオーストリアでのトレーニングキャンプの試合に出場することができたというのは、とても大切なことでしたし、肝心なのはこれから彼らが公式戦に向かっていかにコンディションを整えていって、毎日の練習で優れたパフォーマンスを見せていくかです。現時点では、2人ともとてもいい道を進んでいると言えるでしょう。しかし、何パーセントの状態かということについてお話しすることは、できません」
※記者会見は、7月4日(日)に行なわれたものです。
【浦和レッズオフィシャルメディア(URD:OM)】
【質疑応答】
(今大会のワールドカップは守備的な面が目立つ試合が多いと言われてますが、監督の目にはどう映りましたか?)
「ただし、その守備的なサッカーをするチームはもうみんな敗退しています。とても守備的なサッカーをすることによって、短期的な成功を収めることができたチームがいくつかありました。例えば、スイス代表も一度だけスペイン代表を相手に勝利を収めることができました。しかし、そのようなサッカーを展開していたチームが、準決勝まで残ることができたわけではありません。現時点で残っているチームは、まったく違うサッカーをしているチームです。そして、準決勝に残った4チームのうち、オランダ、スペイン、それからドイツのチームがボール・オリエンテッドなサッカーを展開して成功を収めています。これはとても喜ばしいことです。
グループリーグでは、いくつかのサプライズの結果もありました。前回の大会で優勝したイタリアと戦ったチームがそうですし、フランスと戦ったいくつかのチームがいい結果を残すことができました。しかし、このイタリア、フランスの2チームは、前回大会でのチームから今回のチームへ向けての世代交代を進めることができなかったから、今回のような結果になったのです。どのようなチームでも、2年前、3年前、4年前に大きな成功を収めたとしても、常にチームの中の競争状況を保たなくてはなりませんし、どうしても選手の入れ替えというのが必要になってきます。それは、新しい刺激を与えるため、そしてチーム全体を成長させるためです。過去に優れた結果を残しても、今日、成功を収めることができるという保証はないわけですから。
イタリアやフランスは、このような積極的な強化、そして新たにチームに刺激を与えることを実現できなかったのです。グループリーグのある試合で、イタリアがピッチに送り出した選手のうち9人が2006年の決勝戦の先発メンバーでした。そして、監督も変わっていません。当時と同じ監督です。それだけ経験豊富な選手が集まったにもかかわらず、彼らはひどいプレーをしました。そして、結果を残すこともできなかったのです。
今回の大会でも、一つのことが証明されたと思います。それは、どのようなチームであろうと、新しい刺激、新しいライバル状況、そして選手の入れ替えというものを常に行なわないと、長期的な成功を収めることはできないということです。
ドイツ代表は、2006年のチームをさらに成長させることに成功しました。たくさんの新しい選手を入れて、そして平均年齢も2006年より一気に下がりましたし、とても新鮮な新しい若い選手たちがチーム全体にいい刺激を与えたのです。
スペイン代表は、2008年のころに本当に素晴らしいチームを作り上げて、素晴らしいプレースタイルを実践して結果を残しました。しかし、今回の大会では当時のレベルをキープするのに少し苦労しているところがあります。わずか2年のことかもしれませんが、たった2年間でそれぞれの選手の状況というのは変わってくるわけです。選手は2年分、年を取るわけですし、体の回復スピードは遅くなります。当時の主力だった何人かの選手たちが、現在でも優れた選手であることは間違いないですが、いくつかの問題を抱えています。フェルナンド・トーレスは膝が痛いと言っています。イニエスタも軽いケガをしています。しかも、彼らのピッチ上での回復力は2年前ほど優れていません。そういう意味では、全体的に当時のレベルを保つのに少し苦労している状況だと思います。ですので、今回の準決勝、スペインはドイツ代表と当たることになりましたが、もしかするとドイツ代表にもチャンスがあるかもしれません。
そして、ブラジル代表とアルゼンチン代表が敗退してしまったのは、とても残念です。このようなチームはとても魅力的なチームですから。ただし、彼らの状況はしっかりと分析しなくてなりません。彼らは、最終的には彼らのチームに所属しているスーパースターが優れたコンディションを保って、優れたプレーを見せてくれることを願っていたのでしょう。しかし、これらの選手がしっかりとした形で実力を発揮できないと、彼らでさえ敗退してしまうのです。
ですので、今回の大会で起きていることは非常に興味深いことです。そして、私はこれはとても素晴らしいことだと思いますが、一つのコンセプトを持って、しっかりとした練習を積んで、魅力的なコンビネーション・サッカーを展開しているチームが準決勝に駒を進めたということ。少なくとも、準決勝に残った4チームのうち3つのチームが、このような魅力的なサッカーを展開しています。しかし、そのような形で成功を収めるには、長期にわたって継続的な仕事をしなくてはなりません。そして、ピッチに立っているすべての選手たちが、この哲学が自分たちにとって最も正しいものである、そしてこのやり方で成功を収めることができると強く信じなければなりません。ピッチに送り出された選手のうち、2人もしくは3人の選手がまったく違う考えを持っていて、自分たちはまったく違う哲学を持ってサッカーをやるんだと自分勝手なサッカーをしてしまうと、チームとして勝利を収めることができなくなってしまいます」
(ワールドカップの関連が続きましたけど、日本代表がベスト16へ進みまししたが、フィンケ監督の感想は?)
「細かいことについてお話しするのは控えたいと思いますが、決勝トーナメントで最終的にPK戦で決着がついたパラグアイ戦に関しましては、国際的な評価からすれば、あの試合はとてもひどいものだった、醜い試合であった、というふうに強く批判されていました。しかし、私はそこまでひどいものであったとは思っていません。忘れてはならないのは、両方のチームが、それまでの歴史上成し遂げることができなかった成功を収めることができる、という状況に来ていて、ピッチに立っているすべての選手がとても高い緊張感の中で戦っていたということです。そして、今回の大会で日本代表チームがグループリーグを突破したことは本当によかったことだと思っています。なぜならば、これは日本のサッカーの将来的な成長のためにもなると私は考えているからです。
そして、デンマーク戦で2度パーフェクトな形でFKのゴールを決めることができました。2つのFKが、あの試合で勝利を収めることができた要因だと思いますし、あの2つのゴールが最終的にはグループリーグを突破する最後の扉を開けることになった鍵だったと思います。そして、今回グループリーグを突破したことによって、国際的なリスペクトを日本のサッカー界は得ることができたと思います。ですので、日本のサッカー界は、この国際的なリスペクトを日本のサッカーをさらに成長させていくために、うまく活用していかなくてはならないと考えています」
(阿部選手にフォーカスすると、阿部選手の活躍はどう映りましたか?)
「まずワールドカップの直前の状況についてですが、直前になって代表チームの方針が変わって、自らゲームを組み立てていく、展開していくというサッカーではなくて、守備的なコンセプトを持ちながらプレーして、ワントップで試合に臨むことになり、しかもこのワントップというのは中盤の選手だった。このような状況になったため、阿部が先発のメンバーに選ばれるようになりました。ワールドカップ直前の親善試合では、日本代表チームが優れた結果を残すことができていませんでした。ですので、直前になってまったく違うコンセプトを持って本大会に臨むことになったわけです。それによって、阿部が先発のポジションを得ることができました。そして、すべての試合で彼はとても優れたプレーを見せたと思います」
(今回のワールドカップでは4-1-2-3というか4-3-3のシステムを採用するチームが結構ありました。オーストリアキャンプでもそのような形を試されたという話を聞きましたが、監督としてはどのあたりに可能性のあるシステムだと?)
「まず解説になりますが(笑)、4-2-3-1のシステムのときでも、攻撃のときには4-3-3になります。そして守備のときになると、はっきりと4-2-3-1という状況が見えてきます。そして、現時点の国際レベルでとても優れた結果を残すことができているチームは、ほぼすべて4-3-3のシステムでプレーしています。スペイン代表は2年前までは4-1-4-1のシステムでプレーしていましたが、現在ではビジャとフェルナンド・トーレスの2人がいて、彼らがツートップ的に動いています。ですので、現在の彼らのシステムは4-4-2ということもできるでしょう。
それから、現時点でこのような、1枚の前線の選手がいて、守備のときにも1枚だけが前線に残って次の攻撃に備えるやり方でプレーしているのがドイツ代表です。ドイツ代表はとても大きな自信を持って、そしてすべての選手たちが、『これが自分たちのやり方だ』と信じてプレーしています。
この4-3-3のシステムのときには、一つのメリットがあります。これは実際にドイツ代表が実践していることですが、ボールを失って守備の状況になって、相手のボールホルダーに対してプレッシングにいくときに、それほど選手と選手の間の距離が遠くないということです。
そして、私は、確かに紙の上で4-2-3-1という形で選手の名前を書くかもしれませんが、それはあくまで土台となるものであって、攻撃の際に前線にボールを出した場合は、必ず中盤の2人の選手のうち1人が攻撃に参加しなくてはいけないのです。ですので、必ずしも紙の上で4-2-3-1と書いてあるからといって、すべての状況で2人のボランチの選手が中盤の底で構えているわけではありません。
ドイツ代表でも、一応、シュバインシュタイガーが、紙の上ではボランチの1人として書かれています。しかし、彼が伝統的な、守備的なボランチのプレーをしているわけではありません。彼はとても優れた選手ですし、確かにいわゆる『6番』のポジションのエリアでプレーしていますが、相手の攻撃を潰す、もしくは守備的な役割だけをこなす選手ではなくて、とても優れたサッカー選手として、あのポジションから攻撃的な姿勢を見せながらプレーをしているのです。
根本的にまず大切なのは、どのような哲学を持ってプレーするかです。ボール・オリエンテッドなプレースタイルを実践するという哲学があれば、ピッチ上でボールがどこにあるかを確認して、チーム全体でスライドしていくわけです。ですので、そのような状況で自分たちのシステムが4-4-2であろうと4-3-3であろうと、もしくは4-2-3-1であろうと、それほど大きな変わりはありません。大切なのは、どのような哲学を持ってプレーするか、なのです。
昨日、ドイツ対アルゼンチンの試合がありましたが、あの試合を見れば、いかにサッカーがこの20年間にわたって変わってきたか、発展してきたかはっきり見ることができたと思います。1990年の試合では、当時の西ドイツ代表だったギド・ブッフバルトが守備的なMFとしてマンツーマンでアルゼンチンの10番、マラドーナを試合を通してずっとマークして、マラドーナがどこに行こうと付いていったわけです。当時の役割を、ブッフバルトはとても優れた形で実践しました。マラドーナは、まったくアルゼンチンのチームにいい影響を与えることができなかったのです。
しかし、昨日の試合を振り返ってみてください。20年間の間に、いかにサッカーが変わったかがはっきりと見えてきました。今のアルゼンチン代表には、当時と同じようにとても優れた選手がいます。それはメッシです。しかし、メッシは試合の状況によって、ポドルスキーと1対1の状況があったり、メッシが中盤の底に入ってきたときにはシュバインシュタイガーと当たったり、ケディラと当たったり、もしくはドイツ代表のセンターバックであるフリードリッヒと当たったりしていました。それぞれのポジションでメッシを受け渡しながら、メッシに対して圧力をかけていたわけです。そして、さまざまな状況でメッシに対して1対1ではなく2対1の状況を作りだしていました。これが当時との違いの一つです。当時のサッカーでは、1人のとても優秀な選手を90分間マークする役割を与えられた選手が存在しました。しかし、そのような選手は今日のサッカーでは存在していません。
今回のドイツ対アルゼンチンの試合を見ながら、監督としてタッチライン際にいたマラドーナのことを見て、当時のことを思い出しました。1990年のワールドカップ決勝のローマでの試合のときには、マラドーナが少しでもカメラに映ると必ずそこにはブッフバルトもいたのです。どのような状況でも、マラドーナにはブッフバルトが付いていました。そして、ブッフバルトは90分間、マラドーナに付きっきりでマークし、彼を押さえ込むことに成功したのです。しかし、今日のサッカーでそのような役割を与えられた選手はいません。90分間、1人に付きっきりで1人の選手だけを押さえ込むこと、このような役割を与えられた選手は、今日の現代的なサッカーでは存在することができないのです。この例を見れば、サッカーが戦術的にどのような形で発展してきたかを見ることができると思います。
昨日の試合は、本当に興味深い試合でした。そして、ドイツ代表がとても優れた試合をしていました。もしかしたら、皆さんもドイツ代表の試合をご覧になったかもしれません。ドイツ代表がプレーしているゲームの内容は、一昔前まで多くの人間が『これがドイツのサッカーだ』と言ったような、古い物ではありませんでした。今日の朝、私がスペインの新聞のウェブサイトを見たら、こう大きく書かれていました。『現在のドイツ代表は、昔のドイツ代表ではない。全く違うサッカーをしている』。
これは、私たちにとってもとてもうれしいことです。私は当時、ドイツ・ブンデスリーガの一員として、根本的なさまざまな育成部門、それからコンセプトの改革に携わった人間の一人です。さまざまな改革を行なうことによって、長期的に再びドイツサッカーがとても優れた結果を残すことができるようにさまざまな準備をしたのです。そして、その改革が実って、2006年以降、ドイツサッカーの代表チームが再び優れた結果を残すことができるようになりました。
そして、とても興味深かったのが、昨日試合に出た(ドイツ代表の)すべての先発メンバーがドイツ・ブンデスリーガでプレーしているということです。これはとても興味深いことです。ドイツ・ブンデスリーガでも、とても優れた仕事が進められている。そして、現時点では、国際的に見てもドイツ・ブンデスリーガがとても優れたレベルにあるということを、昨日の試合が証明してくれました。本当ならば、昨日のメンバーにミヒャエル・バラックがいてもおかしくありませんでした。彼はチェルシーでプレーしているわけですし、いわゆる『外国でプレーしている選手』になります。しかし、彼がケガをした事情もあって、昨日の先発メンバーはすべてドイツでプレーしている選手たちでした」
(今のような解説を選手にもする機会はなかったのですか?)
「選手たちは、さまざまな情報を私から得ています(笑)」
(じゃあ、そのうちレッズにもシュバインシュタイガーみたいなプレーをする選手が?)
「いや、そういうわけではありません。しかし、大切なのは私たちが勇気を持って、そして信念を持って、このコンビネーション・サッカーを実践していくこと、そしてクラブがこのコンビネーション・サッカーをさらに成長させていくということです。確かに、どのようなチームでも、ある一定の期間にわたって成功を収めることができなかったり、敗戦が続くときがあります。しかし、そのようなときでも、自分たちの信念を曲げず、貫くことが大切なのです。
しかし、結果が伴わないと一部の外部の人たちが余計なことを言ってきたり、批判的なことを言ってきて、私たちのこのプレースタイルに対しても、とても批判的なことをあちこちで言って持論を展開する人もいます。しかし、私たちはクラブの一員として自分たちの信念を曲げず、自分たちのやっていることを信じて、これをさらに発展させていくことが大切なのです。そうすれば、必ず結果も伴いますから。そして、今回の国際大会のようなとてもレベルの高いところで、このようなサッカーが結果を収めているということは、私たちにとってもとても大切なことなのです」
(先ほど育成年代に関わっていたと仰っていましたが、具体的にはどのようなことを?)
「当時、1990年代の終わりのころ、ドイツA代表はさまざまな国際試合でとても悪いパフォーマンスを見せていました。大きな国際大会でとても恥じるような、ひどい結果を残したのです。そして、2000年にベルギーとオランダで開催されたヨーロッパ選手権において、ドイツ代表はグループリーグで敗退してしまいました。しかも、グループリーグの最後の試合で、私たちはポルトガルのBチームに大敗してしまったのです。そして、ちょうどこの期間、フランスはとても優れた代表チームを保持していて、とても質の高いプレーを見せていました。
私たちは当時、自分たちの国の育成改革を進めるために、さまざまな国のいいところを取り入れていこうと考えました。そして、私が住んでいたフライブルクからフランスの国境が非常に近いこともあって、何度も何度もフランスに行っていましたし、フランスの優れたものを積極的に取り入れていこうと考えていました。そしてフランスでさまざまな育成部門の改革に携わって、特に育成のために必要なエリート教育の寮のシステムを作り上げたギー・ルーという監督とも私は定期的に連絡を取り合っていました。私たちは定期的にドイツとフランスを行き来して、さまざまな交流の場を持ちました。そして、部分的に提携関係を結んだところもありました。それによって、私たちは何度もフランスのエリート教育の代表的なシステムである、国立エリート育成アカデミーを見学しました。当時、フランスではすべての1部と2部のクラブがこのようなエリート教育を行なわなければならなかったのです。このようなところでは、さまざまな施設・センターが整えられ、すべての才能溢れる選手たちが毎日質の高い練習をこなすことができる環境が整えられていました。そして、国が金銭的に援助していたこのような育成センターというものが、フランスの全州に存在していたわけです。12歳、13歳、14歳の将来性溢れるこどもたちは、平日は毎日学校に通いながら、とても質の高い練習をしていました。そして、週末だけ実家に戻ることができました。その中で最も優れていた選手たちが、そのクラブの中でのさらに上のカテゴリーに昇格することができて、優れたプロ選手に成長していったのです。
私たちは、ドイツでもこのような形でのエリート教育を実践できないかと、さまざまな考えを持って実践しようとしました。そして、このようなドイツでの育成改革を進めるための委員会が設立されました。その中に3人のブンデスリーガの監督が選ばれました。それが、フェリックス・マガト、ハンス・マイヤー、そして私でした。それ以外にも、この委員会にはさまざまなクラブのGMやサッカー協会の代表、そしてサッカー協会で仕事をしている育成専門の指導者もいました。この委員会ではさまざまなことについて議論が交わされました。そして、そのときに決まったのは、ドイツのプロのレベルに所属したいクラブは、必ず優れたエリート教育を実践する育成部門を作り上げなくてはいけないということ。それから、すべてのアカデミーでは、しっかりとした教育を受けた教育者が存在しなくてはいけない、ということでした。単純に『元プロの選手たちに育成部門で指導する機会を与える』、そのようなことでは駄目だということをはっきりと伝えたのです。
そして、スポーツ生理学に詳しい専門家や若者たちの教育学、心理学に詳しい専門家などが各アカデミーに所属して、さらに、各クラブで優れた育成が行なわれているかどうか定期的に協会が確認しました。そして、すべてのクラブが育成アカデミーを運営するときには、すべてのクラブがドイツサッカー協会に対して『私たちはこれだけの優れた選手育成をしています』ということを毎年証明しなくてはいけない状況になったのです。
それから同じ時期に、ドイツ中に、日本で言われている『トレセン』が作られました。そして、各州のみではなく各地域にそのようなセンターができたことによって、その地元に住んでいるとても優れた若い選手たちは、週に何度もそこで質の高い優れた練習をすることができるようになったのです。そして当時行なったこのような全体的な改革によって、とてもたくさんの若い優れた選手たちが育ってきました。そして彼らが今の代表チームでも活躍しているのです。現在の代表チームで活躍している選手は、ほぼ全員このコンセプトで成長してきた選手たちです。彼らはそのようなしっかりとした教育を受けているのです。幼いころから優れた練習をこなすことができただけではありません。さまざまな教育的なアプローチも受けています。例えば、とても若いころから、いかにメディアと付き合うかということも学んでいるわけです。
ですので、このような根本的な改革に携わった人間としてみれば、今回のようなドイツ代表の結果はとてもうれしいものです。しかし、それと同時にあることを理解しています。それは、このようなものをさらに改善していかなくてはいけない。さらに成長させていかなくてはいけない。でないと、継続的な成功を収めることはできないということです。
2000年にアーセン・ベンゲルがあるインタビューでこう言いました。『私たちフランスは、優れた育成により、他の国より10年進んでいる』と。今、現時点であることを言うことができます。それは、当時フランスが言っていた『10年先を進んでいる』という事実は、もうなくなってしまった、と。私たちが追い越したということです。フランス代表チームでは、とても大きな成功を収めたことによって、一部の選手たちが必要以上に代表チームに残るようになってしまいました。そして、新しい刺激を与えなくてもなんとか結果を残せるだろうと勘違いしてしまったのです。
しかし、これがサッカーのとても興味深いところではないでしょうか。
2年前、3年前にどんなに優れた結果を残したとしても、今日とても優れたパフォーマンスを発揮できる保証は存在していないわけです。ですので、どんなに有名な過去に実績を残した選手であっても、プレーの質がよくなかったり、パフォーマンスが悪ければ、他の選手を入れてチームに新しい刺激を与えていかなくてはならないのです。そうでないと、チームの継続的な成長、それから長期的な成功というのは成し遂げることができません。
そして、私たちのドイツ代表チームは2006年以降、さらなる世代交代が進んで、多くの新たな若い選手たちがチーム全体にとてもいい刺激を与えて、チームの総合力を上げることができました。しかし、今後どうなるでしょうか?私たちも気を付けなくてはなりません。この成功が継続的なものになるように。
そして、次の試合、準決勝ではスペイン代表とドイツ代表が当たることになります。これは2年前のヨーロッパ選手権の決勝の組み合わせです。これはあくまで、もしかしたら、ということですが、もしかしたら、ドイツ代表が今回の試合ではスペイン代表を相手に勝利を収めることができるかもしれません。そのような可能性はあると思っています。しかし、私たちはあることを忘れてはなりません。それは、私たちはスペイン代表をとてもリスペクトしているということです。すごく残念なのは、日本では、この試合が夜中の3時に行なわれるということです(苦笑)。そういう試合を見てしまいますと、午前の練習ではとても疲れるんです(苦笑)」
(話は変わりますが、明日のザスパ草津戦の後、韓国へも行くんですが、この夏場の間に、時間をすごくキチキチというか有効に使っていて、選手は相当ハードですが、そのあたりの狙いというのは?)
「私個人的には、その時期にレベルの高いチームと対戦したかったということだけですし、それ以外はすべてクラブが手配したことですので。本当なら、非公開の試合ということで、一番近くにある大宮と対戦することもできましたが、その数週間後に私たちは大宮と当たってしまうので、今回のタイミングでは彼らと対戦することはできませんでした。そして、正直に私は話しますが、この対戦相手を選ぶ作業に関しまして、私は一切絡んでいませんので、この件に関しまして、それ以上はお話できません。しかし、私たちが今回アウェイで試合をするということに関しましては、一切反対しませんし、私たちが電車に乗って大阪に行ったとしても、飛行機で韓国へ行ったとしても、それほど移動時間は変わりませんから。
しかし、非常に残念だと思っているのは、私たちは韓国のホテルでワールドカップの決勝戦を見ることになるということです(苦笑)。とても不思議な感覚です」
(山田直輝と梅崎は向こうでも試合に出てますが、もう実戦には問題ないということですか?)
「彼らがオーストリアでのトレーニングキャンプの試合に出場することができたというのは、とても大切なことでしたし、肝心なのはこれから彼らが公式戦に向かっていかにコンディションを整えていって、毎日の練習で優れたパフォーマンスを見せていくかです。現時点では、2人ともとてもいい道を進んでいると言えるでしょう。しかし、何パーセントの状態かということについてお話しすることは、できません」
※記者会見は、7月4日(日)に行なわれたものです。
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