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伊東氏:少なくとも前の監督さんの倍ぐらいは情報をくださるのでありがたいです。いま、外国籍選手の話が出ましたが、森さん。
森GM:はい。やっと来ました。(森GMが話に加わる。場内爆笑と拍手)
伊東氏:位置は真ん中なのに、ボールの入らないセンターフォワードのようで、ほんとうに手持ち無沙汰だったようですね。さて、エメルソンなんですが。前回のときは遅刻の話をさんざんうかがいました。今回はその話はいいことにして、エメルソン本人が日本への帰化を希望しているという記事がありました。そのあたりの現状と展望はどうなっているのでしょうか。
森GM:私がお話しするのが適任なのかどうかはわかりませんが…。この話題については、昨年の秋でしたか――ジーコ監督が「ああいうフォワードが代表ほしい」ということで、「エメルソンは帰化できないか」と…。これはだれが言ったのかわかりません。新聞の報道から始まったのか、ジーコ監督がフォワードがもう少しほしいと言ったことからこのような話になって表に出たのか、わかりませんが、そういう話題が出ましたね。そのときに本人に確認しました。そういう意志があるのかどうかと。そのときは、ネガティブではない、どちらかといえばとても興味があるということでした。彼は――昨日の新聞でしたか、そういう記事が出て、彼自身のコメントもありましたが――いまも帰化することに関してはどちらかといえば前向きに考えているということだと思います。その理由は、日本に来て、いまはレッズですが、はじめコンサドーレにいて、フロンターレにも少しいて、その間、すごく日本が好きになったし、自分のサッカーも日本で良くなったという実感をもっているということです。それで、どちらかというと前向きの気持ちをもっているというのが現状だと思います。では、目的は日本代表になるためかといえば、けっしてそうではないということです。それだけで帰化するのではないという気持ちです。あと、ハードルがあるといえば――ブラジル人が日本人になるための手続き上の問題…。もちろん、申請をして、それが認められなければなりません。そのためには、本人がもうちょっとしっかりしないといけない(場内爆笑)。まず、法務局ですか…面接があって、何のために日本の国籍を取りたいのかなど、いろいろな質問を、当然ながら日本語でされるわけです。そのとき日本語できちんと答えられるのかどうか。まだ難しいと思いますね。
伊東氏:いま、日本語はどのくらい話せるのですか。
森GM:いや…どの程度なのかもよくわからない。聞くことについては、日常会話はだいたいわかるようになって、しゃべるほうも、「はら、へった」とかね。「つかれた」とか「かんばる」とか。単語を並べてなんとか意志を通じさせる程度にはなっているようです。ほんとうに帰化申請をして認められるには、まず、日本語をもう少し勉強しなければならないだろうと、ぼくは思っています。それと、帰化した場合にどうなるのか。ワールドカップに出たいという気持ちは本人も強くもっています。日本代表であろうが、ブラジル代表であろうが。しかし、どちらで出られるのか…というより、日本に帰化した場合に日本代表で出られるのかどうか。彼はユース時代にブラジル代表でワールドユースの予選に出ているんです。日本に帰化したからといって日本代表での出場が認められるかどうかははっきりしていない。ワールドユースの試合に初めて選ばれて出場する場合、2つの国籍をもっている選手が、最近増えています。たとえば、フランスの旧植民地であるアフリカの国々から14〜15歳の子どもをフランスのクラブが連れてきて育てた場合、その子どもたちはフランスの国籍もアルジェリアなど故郷の国籍ももっている。そしてその選手がたまたまフランス代表としてユースの試合に出る。でもその選手が二十歳[はたち]ぐらいになって、フランス代表では難しいなとなったとき、故郷に帰ってプレーすることにして、故郷の国で代表として試合に出たいというケースが出てきている。そこで、二重国籍の選手については、1回はそれを認めようという検討がFIFAでなされて、それが認められる方向になっています。でも、エメルソン選手の場合は二重国籍ではなくまったくのブラジル人としてユース代表の試合に出ているわけですから、そういうケースが認められるのかどうか、難しい段階だと思います。そういうハードルもあります。
伊東氏:そのあたりについては、クラブとして、本人の意思を確認してサポートする用意はあるということでしょうか。
森GM:そうです。
伊東氏:資格問題の調査も含めてですね。
森GM:そうです。そういうことも含めて、エメルソン自身の将来にかかわることですから、本人に意志があり、そして家族全員が賛成しているということであれば、クラブとしてはサポートしたいと思っています。
伊東氏:法務局の面接のときには遅れないでほしいですね。それが第一でしょうね。
森GM:そういうところからサポートしなければいけない。だから、手がかかるんですよ(場内爆笑)。
伊東氏:それはともかく…。外国籍選手はニキフォロフとエメルソンのふたり。もうひと枠、いまのところ空席になっています。監督との話し合いもされていると思いますが、これは、シーズンが始まってからの不測の事態とか状況の変化を見越して、臨機応変に補強していくということでしょうか。
森GM:もともとは3人で計画していました。昨シーズンからのテーマとして、左サイドで攻撃ができるプレーヤーがほしいというニーズがあり、それを外国から獲得しようと、昨年の段階で計画していたわけです。いろいろリストアップして選考しているときに、アレックスの話が出てきたんですよ。彼は清水を出たいと言っているし、可能性がありそうだと。それで、外国籍選手で考えていた左サイドのプレーヤーの予算を三都主に使ったんですよ。したがって、枠はあるけれど、3人目の外国籍選手をとる予算がないわけです。これが現状です。三都主も見た目は外人みたいだし、力もそうですからね。できればもうひとり、とれればいいという気持ちは私自身にもありますがね。実は、まだ犬飼代表にも話していないことですが…。ニキフォロフ選手の契約は今年のファーストステージの終わりまでとなっています。きのう手術をしたばかりで、回復にどれだけかかるのかはっきりしない。本人は1日も早く手術して早く戻りたいということで、きのう手術をしたわけですが、順調にいって2カ月で試合にでられるかどうかというところです。でも、これはリハビリの経緯によっても変わってきますからね。少し様子を見て、ファーストステージが難しいということであれば、監督に「これでやれ」というのも気の毒。私の立場としては、将来起こりうることをできるだけ早く考えて対処していくというが必要なので、実はもう、きょう、もしそうなったらという場合のリストアップを始めたところです。これはまだ、だれにも言っていない話ですよ。代表にも言っていないんですから。予算の問題もありますしね。ですから、3人目の枠を空けていつでもとれる準備をしているということではなく、いま申し上げたことが現実ですね。
伊東氏:非常にわかりやすいお話で…。
山内通訳:監督が、ロベルトカルロスがほしいと言っています(場内拍手)。
ブッフバルト監督:(日本語で)お願いします。
伊東氏:どうですか、森さん。
森GM:いや、それは去年、犬飼代表も言っていましたよ。それで、スペインに電話して彼の年棒がいくらかきいてみたら、「ええっ! ちょっと無理だね」という金額でした。7分の1ぐらいだったら考える余地があるけど。
伊東氏:きょうはみなさん、サービス精神旺盛で、だいぶ知らない話が聞けました。森さんにはまたちょっとお休みいただいて、監督に戻りたいと思います。個人的にすごくきいてみたかったことですが、ブッフバルト監督が好きな選手…具体的な名前ではなくて、こういう選手が私は好きだという――これは監督としても、フットボーラー、ギド・ブッフバルトとしてもなんですが――自分はこういう選手が好きなんだという選手像があったら教えてください。
ブッフバルト監督:好きな選手はジダン。彼は攻撃もできるし守備もやる。非常にすばらしいアイデアをもっていてゲームをつくることもできます。さらに1対1にも強い。理想的な選手だと思います。ロナウドも、エメルソンも大好きです。サッカー選手は2つのタイプに分けられると思います。ひとつは芸術家肌の選手。そしてもうひとつは一生懸命寡黙に仕事をするタイプの選手です。ディフェンダーであった私は一生懸命仕事だけしていました。ただ、オフェンスの選手はみなさんが見ていても楽しいと思いますし、それでいいと思いますが、ディフェンスの選手としては、坪井慶介のように、役割をこつこつとこなす選手、そういう選手も大好きです。
伊東氏:思わぬ答えがかえってきました。ドイツのサッカーのイメージからして、最後まで戦い抜く――たとえばローター・マテウスのような選手をあげられるのかなと思っていました。でも、ジダンのようなファンタジスタ系の選手が好きということから、ブッフバルト監督の創造的な攻撃的サッカーというものが垣間見えたような気がします。マテウスも嫌いではないですよね。
ブッフバルト監督:マテウスも選手としては好きです。でも、簡単に言うと、チームにとってはバランスが非常に大切だと思っています。ひとりの選手がみんなに注目され、ハイライトシーンに輝くのは、チームの活躍があってこそです。それでこそ個人が輝くと思います。ドイツについてですが、前回のワールドカップでは準優勝、90年のワールドカップでは優勝しています。ドイツ人の力は、戦い、そしてあきらめないということです。サッカーというものは、天才が集まれば勝てるかというとそうではありません。11人のベッケンバウアーがいればそのチームが優勝できるというわけではないのです。ブラジルもそうです。11人のロナウドがいれば優勝できるか。そうではありません。やはり、ルシオだとか、いろいろなタイプの選手が必要なのです。いろいろなタイプの選手が集まってはじめて良いチームができると思います。オフェンスの選手は当然ディフェンスの選手が必要ですし、ディフェンスの選手も勝つためにやはりオフェンスの選手が必要になってきます。理想としては、良い選手の集合体でチームとして良い結果を出していく、それが、私が理想としているサッカーです。
伊東氏:ありがとうございました。マテウスの名前に対してはちょっと一拍あったので、たぶん、現役のころはそうとうがみがみ言われたのだろうな、と思いました。(ギドに伝えようとする山内通訳に)いや、その話はもういんです。さて、話題を変えましょう。若い選手について、一般論でうかがいます。監督が選手寮を見て、プロ選手は基本的に自立させるべきではないか、選手寮があるならユース年代をそこで育てたらいいのではないか、ということを提案されたと聞いたのですが、その真意をうかがいたいんです。
ブッフバルト監督:ヨーロッパ、ドイツに関してですが、22〜23歳で、サッカーで生計をたてている人が寮に住むということはありえないと思います。23歳にもなれば自立しなければいけない。二十歳を過ぎれば、ピッチで、大観衆の前で自分に与えられた役割をこなしていかなければならないという責任を与えられるのですから…。そういう責任感をもった人が寮に住むべきではなく、自分の生活でも自立すべきだと思うのです。ヨーロッパあるいはドイツでは、ふつう、寮に住むのは15歳から18歳ぐらいの子どもたちです。もちろん、子どもといってもサッカーのすばらしい才能をもった子どもです。そういう子どもたちに集中してサッカーに取り組ませるということをしています。そのほかに学校という問題がありますね。それについても、すばらしい教育が受けられる環境を整えています。子どもたちの両親も、彼らがちゃんとした部屋に住み、食事を与えられて、そういうなかでサッカーに集中できるということで、安心しています。サッカー選手としては、18〜20歳で伸びるということではなく、それ以前のほうが、才能がどんどん伸びる時期です。18歳以降ではないと考えています。ただし、これはあくまでもヨーロッパあるいはドイツでの話であって、日本の場合、学校とクラブの関係がヨーロッパとはずいぶん違うと聞いています。たとえば、私の住んでいるシュツットガルトでは、どこの学校の先生でも、小さなクラブの監督さんでも、VfBシュツットガルトというチームに選手を送り出せたらそれだけでも光栄なことだと思うでしょう。でも、日本ではどうやら違うようです。最近私にもそれがわかるようになりました。
伊東氏:いまのお話はユース年代の戦略的な強化にもかかわってくると思いますが、そのあたり、森さんはブッフバルト監督のお話をどう思われますか。
森GM:ギドはドイツ人で私は日本人ですから…そこにおのずから国の違いとか、育っていく環境のとかですね…。いま彼も学校とクラブの問題に触れましたが…。私が思うには、自立するということは、日本人よりもドイツ人のほうが2年か3年早いと思います。たとえば、成人式は二十歳ですが、日本人が二十歳で大人になるとしますと、ドイツ人は17歳ぐらいで大人になる。「大人になる」というのは抽象的すぎる言い方ですが、要は自分のすることに対して自分が責任をもたなければならないということを本人がわかる、ということだと思います。親も子どもを育てる過程のなかでそういうふうに指導する。私が1年間ドイツに住んでいたときにも、ドイツのいろいろな家庭との交流のなかで、子どもの育て方の違いを感じました。しつけが驚くほど厳しい。でも、逆に17歳になったら自分の好きなことをなんでもやらせるという考え方で育てていました。日本の場合は違う。頭も考える力があるし、体も大人の体になっている。でも、まだ学生だから、という理由で必要以上に頭を押さえつけている部分が日本の社会にはあるのではないかと思います。そこに、自立を促すうえでの日本とドイツの違いを、私は感じます。ドイツだけでなく、ヨーロッパのほうが少し早いと。そこで、寮の問題ですが、ドイツ人の目から見れば、なんで19〜20歳の、しかもプロ契約している選手を寮に入れるんだ?という論理が成り立つと思いますが、私の目から見ると、日本のその年代はまだ見張っていないと何をするかわからないと。こういう心配があるから、高校卒業したばかりの選手は寮に入れて、しばらくの間、大人というのはこうなんだということを学ばせないといけない。実際、自分が大人になるわけです。学校のルールやら何やらからも解き放たれて、しかもサッカーというスポーツを契約してやると。毎日毎日、サッカーはきちっとやらなくてはならないけれど、それ以外は…。何も言われなければ、夜中にディスコに行ったりする選手が必ずいます。
伊東氏:ディスコっていうのはちょっと古いかも…。
森GM:あ、古いですか。ですから、日本の場合は、高校から入ってきた選手はやはり1〜2年、見張っておかねばならない。「見張る」という言葉も古いかな。ちゃんとした大人になるための最低限の教育というか、何かを教える必要があるということで寮を構えているわけです。
伊東氏:当面変更の予定はないわけですね。
森GM:ないですね。我々も下部組織についての課題を感じてはいます。私は2年前からレッズのGMという仕事をさせてもらっていますが、2年前、下部組織の目的は何だろうと考えたときに――サッカーの普及ということもありますが――レッズのトップチームで、レッズの下部組織から育った選手が何人レギュラーで活躍しているか。そういう選手を育てることがいちばん大きな目的のひとつだろうと思います。一方、レッズがプロになって約10年近くですが、その間やってきた基本的な考え方は、本来の目的よりも、浦和の町の――この近隣の若い子を育てようということでした。それと、普及ということに貢献できれば、下部組織をもつ意味があると。そういうことで、練習場から通える範囲の子どもたちだけを集めて、そのなかでサッカーがうまい子を集めてやってきたという過去の経緯がある、と聞きました。Jリーグのなかでも、サンフレッチェやマリノス、ガンバなど、下部組織から育ってレギュラーになっている選手のいるクラブでは、その基本的な考え方が違うのです。複数のユースチームを持って――ガンバなんかも堺と万博に持っていて、そこから、いい子どもを、高校にあがるときに集めて、寮に住まわせて、ということをしているそうです。結局、良い選手を育てるためには、良い素材を集めて、良い練習環境で良いコーチに指導させることです。これがそろえば必ず育ちますよ。ダイヤモンドの原石は磨けば光るが、砂利を一生懸命磨いてもこれは光らない。だから、良い素材をいかに集めるかも大事なことです。できれば、来年の春に卒業する中学生、小学生の子どもたちを、少し広い範囲から、たとえば県外からもいらっしゃいと言えるような受け皿を、いま準備しようとしているところです。親御さんからみれば、子どもを預けるとなると、勉強をしっかりやれるような環境なのかとか、高校に入るにも――うちの子はサッカーしかできないから高校はどこでもいいという親御さんもいるかもしれないが――勉強もしっかりさせたい、浦高ぐらいはねらえると考える親御さんもいるでしょう。そういういろいろな可能性を受け皿として用意したうえで、サッカー選手として良い素材を集め、良い環境と良いコーチを与えて、何年か後に、レッズの下部組織で育って、レッズのトップチームで活躍する選手――これから必ず出てきますから――それを目標にやりたいと思います。
伊東氏:戦略的なユース強化に今年、本格的に乗り出すというお話でした。たぶん、前所属チームにレッズユースという経歴の選手が、3年後にメンバー表に何人か入ってくるということがいまのお話の目的だと思います。ここにいていただいて…。
森GM:クビにならなければね(場内爆笑)。
伊東氏:まあ、仮にいなくても、森さんの仕事の成果ということでご記憶いただければいいと思います。時間も残り数分となりました。ブッフバルト監督、ここでは約束として、目標――優勝、がいちばんいいのですが――とりあえず、ファーストステージで何位を目指すかをはっきり言っていただいて、みなさんが気持ちよく帰れるようにしてください。
ブッフバルト監督:サッカーの世界では約束ということはできません。私の目的は選手の能力を高めていくことです。ひとりの選手の能力が10パーセント高まれば、10人のフィールド選手がいるので、高まったぶんをあわせると全部で12人いることになります。いずれにしても、魅力的でアグレッシブで攻撃的なサッカーをやっていきたいと思います。そしてもう一度、目標ですが、「昨年より上」で、どこまで上かは…終わってから見てみたい。そう思っています。なぜ言えないかというと、Jリーグには良いチーム、強いチームがたくさんあります。そういうチームを尊重して…。やはり…先ほども言いましたように、サッカーの世界では約束はできないということです。
伊東氏:わかりました。いくつか質問を受けようと思っていたのですが、つたない進行のせいであえなくタイムアップとなってしまいました。ご勘弁ください。最後にブッフバルト監督に激励の拍手をいただいて閉会としたいと思います。ありがとうございました。
ブッフバルト監督:(日本語で)どうもありがとうございます。
佐藤チーフマネジャー:伊藤さん、どうもありがとうございました。それでは、最後に、選手を代表しまして、キャプテン山田暢久よりごあいさつを申し上げます(場内から「おお!」とどよめき)。
山田暢久選手:こんばんは。今シーズン、キャプテンを務めることになりました山田暢久です(場内大拍手)。キャンプも無事に終了し、開幕に向けて最後の調整をしています。我々は今シーズン、全力でプレーすることをお約束します。今年もスタジアムで一緒に戦いましょう(大拍手)。
佐藤チーフマネジャー:ありがとうございました。以上をもちまして「語る会」を終了させていただきます。みなさん、山田キャプテンと一緒に今シーズンも戦っていただけると思います。ありがとうございました。
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