OTSUKI TSUYOSHI
敗戦で、積み上げてきたものがゼロになることはない
攻撃の質を高めるだけでなく得点機を増やしたい
みなさん、こんにちは。
8月最後の試合になった大分トリニータ戦で、ホームで3勝目を挙げることができました。
大分はクロスからの得点が非常に多いチームですから、その対策は十分にしていましたが、それぞれの局面で多少のズレがありゴールを許してしまいました。
しかし、神戸戦で失点したときもそうですが、選手たちがそれで下を向いてしまったとか試合をコントロールできなくなったということはありませんでした。変わらずに攻撃を続け、こちらが攻勢の中で2点を取ることができました。特に2点目のセットプレーに関しては、練習でやっていたことをすぐ選手たちが表現してくれました。
後半、追加点が欲しかったのですが、チャンスを作りながらも奪えず、大分の攻撃に対してもしっかりと対応しながら試合を終えることができました。
先週の土曜日、アウェイで行われたセレッソ大阪戦はゴールを挙げられずに負けてしまいました。立ち上がりから、何度かチャンスも作ったのですが、相手の堅い守備をなかなか崩すことができませんでした。
一方、前半は相手の攻撃に身体を張って失点を防いでいましたから、そのまま試合を進めていけば、どこかでチャンスを広げることができると考えていたのですが、後半の早い時間帯に先制されてしまいました。相手の攻撃を局面でしっかりと止めなくてはいけないことはもちろんですが、その前に良くない形でボールを失ってはいけません。
しかし時間も十分ありましたから、追いつこうと攻撃のギアを上げたのですが、選手交代直後のポジショニングのスキを突かれ、2点目を奪われてしまったのは残念です。
最後まで、まず1点を取ることを目指して、反撃を続けましたが、かないませんでした。その過程で、連携ミスから相手に3点目を与えてしまったのは、絶対にやってはいけないことでした。敗戦という結果は同じでも、0-3というスコアは悔しさを募らせますし、何よりもファン・サポーターのみなさんをがっかりさせてしまったと思います。
このところの試合で、ボールを握ったときにチャンスを作ることはできています。そこでゴールに結びつける攻撃の質を上げることは大事ですが、同時にその回数を増やすことがもっと大事だと思っています。
また再開後、良い形で勝利した試合の後、上位のチームとアウェイで対戦し、さらに上積みを目指そうという試合でやられています。ここを乗り越えなければなりません。
C大阪戦で敗れたことは残念ですが、これまで積み上げてきたものがすべてゼロになったわけではありません。C大阪戦の結果をしっかりと受け止めて、さらに前進するために必要なことをやっていきます。
ただし敗戦の後の試合では、より強い闘争心が必要になります。
今日の相手、サガン鳥栖は、新型コロナウィルスのために数試合が中止となり、前節の横浜FC戦が再開初戦のような位置付けでしたが、非常に高い意識で試合に臨んでいたと思います。しかも勝ったことで、その勢いを強めて向かってくるでしょう。
我々は多くの方々の期待を背負って、相手を上回る気持ちで戦います。
そして、この埼玉スタジアムで勝利を挙げるために全力を尽くします。
筑波大学からソニー仙台FC(JFL)入りし、選手としてプレーした後、指導者の道へ。宮城県富谷高等学校サッカー部監督、筑波大学コーチ、水戸ホーリーホックコーチ、大宮アルディージャコーチを経て、2004年から浦和レッズ強化本部スタッフに。06年から10年まではコーチとしてリーグ優勝やACL制覇に寄与した。11年はベガルタ仙台のヘッドコーチを務め、12年から浦和レッズ強化部スタッフに復帰。13年から浦和レッズ育成ダイレクター兼ユース監督を務め、18年4月2日、トップチームの暫定監督に就任した。監督在任中はリーグ戦3勝1分け、ルヴァン杯1勝1分けの無敗で、オリヴェイラ監督にチームを引き継いだ。その後19年3月までヘッドコーチを務め、同年5月28日、1年1ヵ月ぶりに浦和レッズの監督に任じられた。今季も引き続き指揮を執る。
サイドでも攻撃に絡む時間を増やしたい
埼スタで今季2点目を決める
○YBCルヴァンカップC大阪戦から連続して公式戦に出場している。先発ではなくても毎試合出場というのは、復活を期した今季、手ごたえになっているか。
「今季、最初はなかなか試合に絡めずに、メンバー外の時間も長かったですが、柏戦あたりからチャンスをもらえて、自分のコンディションも良かったので、ある程度の手ごたえというのは出てきていました。そこから試合出場時間も増えてきたと思います。
スタートの時期に比べれば少し進んでいるように思いますが、今はもっと結果を出してチームに貢献したいという気持ちの方が強いです」
○ポジションはFWのほかサイドハーフも務めている。
「やったことのないポジションではないので特別難しいことはないですが、僕がサイドハーフで出るのはリードしている試合が多かったと思います。チームとしてはしっかり守って勝利で終わらせようという時間なので、僕もサイドで時間を使って試合を終わらせるということができていたと思います。しかしサイドで出場したときもボールに絡みながら攻撃的なプレーが増えたらいいなと思っています」
○柏戦や名古屋戦の大敗、広島戦の辛勝、G大阪戦の快勝、神戸戦の惜敗、大分戦の勝利を経てチームの変化は。そして、これからの自分の役割をどう感じているのだろうか。
「一つひとつの試合において、反省をみんなでしっかりして、次の試合に生かすということができていたと思いますし、それはこれからも続けていかなければいけないことだと思います。
いまチームとしては、リードするとリスクをかけて追加点を取るというよりも試合を終わらせるということに重心がかかっていると思いますから、その仕事は果たしつつカウンターでゴールを挙げることができれば、相手も怖さを感じてくると思います。
自分のポジションがどこでも、監督が求めることにある程度応えられるというのは、僕がレッズで成長できた部分だと思います。しかし、それにプラスして何ができるかということでは、もっとゴールを取ることにチャレンジしていきたいですし、それができればもっと良い選手になれると思います」
○そういう意味では2点目が早く欲しい。
「昨季も1点しか取れていないですし、アウェイでした。早く2点目を埼スタで決めたいと思っています。やはり埼スタでのゴールというのは素晴らしい気持ちになれますし、自分が乗っていく要素だと思います」
○コロナ禍でのリーグ戦が続くが、さまざまな制約には慣れたか。
「全体的には慣れてきたと言えます。ウォーターブレークは、試合の中で意思統一したり監督の指示を全員が確認したりという機会にもなっています。もちろん多くのファン・サポーターがまだ試合に来られないのは寂しいです」
○ホームゲームでロッカールームに置いてあったマッチデー・プログラムもなくなった。
「それにも慣れましたけれど、試合前に読んでいる選手も多かったので、少し寂しいですね。早く復活して欲しいとみんな思っていると思います」
○昨季までクラブが赤いバナーを製作し、商店街などに設置してきたが、今季はそれができていなかった。このたび、選手が経費を捻出してデザインを含めて製作し、市内に設置されることになった。
「西川さんはじめ、興梠さん、宇賀神さんたちがクラブと話し合って何か選手にできることはないか、という中で出てきたことだと思います。僕たちも何か浦和のために力になれることはないかと思っていましたし、商店街にバナーが掲げられることで、自分たちの責任ということも感じられて良いと思います。
あのバナーが毎年デザインを変えて、みなさんの協力で設置されているというのを僕自身あまり知らなかったですし、今回それを知る機会にもなりました。より浦和の街を盛り上げていこうという気持ちになります。デザインについてはいくつかの候補があって、選手の中でどれがいいというのを決めました」
守備ではたち帰るところがある
そこからどう良い攻撃につなげるか
○今季2点目を挙げたG大阪戦後の記者会見で、再開直後はコンディションが良くなかったが、徐々に上がってきたことを明かした。
「広島戦は内容的にあまり良くなかったですが、僕自身は守備で頑張れたし、身体は動けていたかな、と思います。その前の名古屋戦も、後半だけでしたが、手ごたえはあったと思っています。自分で良くなってきたかなと感じたのは、そのあたりからですね」
○再開後、先制された6試合の中で、追いついたのは神戸戦が初めて。逆転勝利は大分戦が初めてだった。
「神戸戦も大分戦も、前半のうちに追いついたのが良かったです。さらに大分戦は前半のうちに逆転もできました。やはりリードされている時間帯が長くなるとだんだん不利になってきますし、追加点を取られるようなことがあったら、取り返すのは難しくなります。だから、もし先に点を取られても、いかに追加点を与えないか、早い時間帯に追いつくか、ということが大事です。
神戸戦や大分戦は先制されてからのメンタルや試合運びが、追加点を取られた柏戦や名古屋戦とは全然違っていたと思います」
○守備のときに、相手のボールを奪いにいくスタイルだった関根だが、今季は我慢していることが多い。
「特に広島戦は、我慢しないといけなかったです。試合前からそうなるかな、という感じでしたが、試合が終わってから、あれは良くない、チームとしてやるべき姿ではないという話になりました。だから広島戦があって、G大阪戦で修正できたと思います。
今は状況によって整理できています。前から取りに行くということはありますが、こういう位置でこういう状況だったら4-4-2を崩さずに守ろう、という意思決定をしています。そういうふうにたち帰るところがあるのは、守備面では大きいです。それも広島戦が良い経験になって、生かせています」
○今後の上積みについてはどうだろうか。
「攻撃面はまだまだ上積みしていかないといけません。
守備は先ほど言ったようにたち帰るところがあって、試合を追うごとに経験を積んで良い修正ができていると思います。そこからどう良い攻撃につなげていくかということを突き詰めていかないといけません。具体的にはボールを奪ってからもっと早くシュートまで持って行きたいです。持っている時間が長いほどレッズの良さが出ないと言われますから、そこを変えていかないといけないです。チャンスはあるんですが、もったいないことが多いです」
○2017年のホーム広島戦のような、長いドリブルからのシュートを期待するファン・サポーターは多い。
「頭にはあります。もう一度やりたいですね。左サイドでやるときは狙っているんですが、なかなかうまくいきません。ドリブルだけでなくて、途中誰かにはたいてまたもらうなどバリエーションを増やして、シュートレンジまで持って行ければと思っています。
いまスペースがあってドリブルで仕掛けるという場面はなかなか作れませんし、相手がスペースを埋めているところを崩す攻撃はまだできていません。サイドで作って逆サイドに送って仕掛けるとかが多いですね。あとはバランスを崩さないようにしないといけませんが、もっと中でプレーしたいと思っています」
○ピッチの中でチームを動かすリーダーが必要と言われてきたが、自身にその意識は。
「リーダーになりたいとは思っていますが、まだそこまでの存在にはなれていないです。誰かがやらないといけないと思っていますが、自分が向いているかと言われればそうではないと思います。ただサポートは全力でやっていきます。サイドハーフに自分がいると楽だと思われたいですし、そういう存在でいたいと思っています。いざというときに結果を残したいです。
今は内容がすごく良いかと言われればそうではないですが、上を狙える位置にはいます。だから、これからだろうと思っていますし、それをブレずにやっていこうというのが今のチームですから、そこで自分も力を出したいと思います。自分の良さを出していればいい、という年齢ではないですし、先ほどのリーダーの話ではないですが、自分がやりたいことを抑えてもチームのためにやらなければいけないこともあります。そこのバランスを考えてやっていきます」
ゴールに近い位置で奪えるよう
前線でのプレスを90分やり続ける
○キックオフ直前、ハーフウェーラインとセンターサークルが交わる地点で両手を上にかざし、じっとしている姿が印象的だ。
「あれは祈りです。ケガをしないで、良い試合をして勝てるように、神の祝福があることを祈っています」
○相手が最終ラインでボールを持っているとき、疲れている後半でも全速でのアプローチを怠らない。
「いつもそうしているのは、ボールを奪う位置が相手ゴールに近ければ近いほど、得点につながると思うからです。以前からそれはやっていたことですが、特に今は監督からもそのようなプレーを求められています。
もちろんだんだん疲れてきますが、90分間それができるように練習で準備しています。それがゴールに近付くことですから」
○J3、J2に続いて、J1でも得点王を狙うと、掲げた目標はシーズン23ゴール。現在の14試合9得点はほぼそのペースだが、ゴール前でボールを持っていて、自分が打てそうなときでも、味方が良い位置にいるとパスを選択することが多い。しかも、そのパスはやさしく丁寧だ。
「自分の考え方なのですが、自分がシュートを打てたとしても、もっと得点になる可能性が高い状況の選手がいれば、そちらへパスを出す方がチームの勝利につながると思っています。
もし、その選手に出して得点にならなかったにしても、自分が打てば良かったとは思わないでしょう。もちろん嘆くことはあるでしょうが、自分も含めてミスは付き物ですから。その後でまったく同じような状況になったとしても、やはりパスを選択します。
ラストパスを出すときは、相手が打ちやすくなることを心掛けています。ボールをセットする感覚です」
○レッズについて一昨年在籍したガイナーレ鳥取の岡野雅行GMからいろいろ聞いたという話だが、昨季所属した新潟にも田中達也や大谷幸輝ら元レッズの選手がいた。
「そうですね。岡野さんからはもちろん、新潟の彼らかも非常に良い話を聞いていたので、浦和レッズでプレーすることが自分の目標の一つになりました。今はそれが実現してレッズで自分の役割を果たせているかなと思っていますが、これからしっかり活躍してクラブの歴史に名を刻みたいです。
ただサポーターがたくさんいないのは寂しいことですし、特にレッズにおいてはそう感じます。早く彼らがみんなスタジアムに戻れるようになって、満員の中でサッカーができるようになることを願っています」
○リーグ戦でのチーム総得点は18点で、そのうち半分がレオナルドの得点だ。
「それは誇りに思います。自分の仕事を果たせているのかな、と感じています。ただ自分たちの目標は来季のACLに出られるような順位になることです。僕がこの先40点決め、他の選手が10点取って、その目標を果たしてもいいですし、逆に僕がこの先得点が伸びなくて、みんなが40点、50点取って上位にいなることができれば、それでも良いと思います。
もちろん得点王を獲ることができれば、レッズの歴史にも、日本の歴史にも名を連ねることができるでしょう」
○公式戦で挙げた11点のうち、最も気に入っているものはどのゴール。
「選ぶのは難しいですね。でも強く印象に残っているのは、初めてレッズで挙げたルヴァンカップ仙台戦のゴールです。ただし、良くないゴール、というのは存在しません。ゴールを決められないことが良くないことです」
清尾 淳 ● せいお じゅん
『収穫の証を示すのは今日』
C大阪戦の試合後、先制点を決めた都倉 賢選手の「この試合にサッカー人生を懸ける覚悟で臨んだ」という趣旨のコメントを読み、浦和レッズの選手たちはどうなのだろうと考えさせられた。
公式戦が再開したのは、もう2ヵ月も前だ。サッカーができなかった時期の思いを忘れてはいけないが、サッカーができる喜びだけを感じている時期はもう過ぎた。
先発で出る選手はその座を絶対に明け渡さない強い意志を、交代で出る選手は先発の座を奪い取る決意を、そして久しぶりに出場した選手は自分をそれまで起用しなかった監督に後悔させてやるという気持ちを、それぞれがプレーで示さなければ、すぐに取って代わられる。そういう自信と危機感を併せ持って試合に臨んでいると信じたい。
今季のチームの変化をグラフで表わした場合、その線が真っ直ぐの右肩上がりになっていくとはもともと思っていなかった。上がり下がりしながら、急上昇や、時には急降下もあるだろうと覚悟していた。
ここで言うグラフとは、試合結果をその印象も含めて表わしたもので、平たく言えば試合後の心情に近いかもしれない。だから柏戦や名古屋戦は同じ敗戦でも急降下だし、苦しかった広島戦は右肩上がりでも上がり幅は少なくなる。
チームの成長曲線は、1試合ごとの上がり下がりとは別にある。
名古屋戦から大分戦に至るまでの5試合で、試合運びやそれをつかさどるメンタルは一歩も二歩も前進したと思うし、それが結果にも反映されていた。
C大阪戦の結果は最悪に近かったし順位も落ちてしまったが、チームの成長曲線が下を向いてしまったかといえば、そうではないと思う。
結果とは別に前進したところもあった。
たとえば特に前半、相手のパスワークに対応しきれずシュートチャンスを作られることがあったが、そこにしっかりと身体を寄せてブロックし、失点を防いでいたこと。
前回のMDPで大槻監督が求めていた「ボールに正対して」いたかは確認してはいないが、完全に崩した、と思って放ったシュートをあのような形で止められるのは攻めている側が嫌だろうな、というのが前半を終えての感想だった。記録によるとC大阪のシュートは前半4本。おそらくシューターの至近距離でブロックされたものはシュートにカウントされていないのだろう。スタジアムで見ていて、泥臭くはあったが前進をしっかりと感じた。
もう一つの前進点は、まだ見えない。
記者席から見た僕の心情はこうだった。
後半3分。「前半の失点に追いつくのは神戸戦、大分戦で見た。後半の失点にも焦らず追いついてみせろ」
後半29分。「0-1から追いつくだけではなく、0-2から追いつくところも見せてくれ」
アディショナルタイムに突入。「もう勝ち点は難しいが、あきらめずに1点返せば次につながるはず」
願いはことごとく破れた。だが3回あった失点までの展開で、あるいは大きなチャンスに得点できなかった展開で、何かを学んだはずだという期待をしている。
結果や順位を見れば後退だが、経験値という意味ではどんな試合にも前進のヒントはあるはずだ。
試合後のリモート記者会見で槙野も「負けの中にもたくさん収穫があったゲームだったと思う」と語っている。そのとおりだと思う。しかし収穫があっても、それをしっかりと生かさなければ、ただ負けただけになってしまう。
やられっぱなしではなかったことを示す機会は4日後のいま訪れている。
今日の相手、鳥栖はサッカーができない悔しさをつい最近まで感じていたはず。そして再スタートの前節、3-0で快勝した。その鳥栖にしっかりと勝つことで、「C大阪戦での収穫」を、みんなに見せて欲しい。
★編集後記。Jリーグの統一応援スタイルとして「容認される行為」に「手拍子」が加わった。境界線を引くのが難しそうな、拍手と手拍子の違い、それは「意思の結束」だろう。拍手も、みんなが同じ思いでする行為だが、そのリズムはバラバラでいい。しかし手拍子は、大勢がリズムを合わせなければ効果がない。そういう意味で、今日はファン・サポーターがより一つになれると思う。(清尾)