OTSUKI TSUYOSHI
残り3試合でいかにチームの力、選手の力を全部見せるか
そしてホームで、勝利をお見せしなければなりません
みなさん、こんにちは。
3週間前のガンバ大阪戦は非常に悔しい試合でした。
その中で後半、セットプレー形から先制することができました。それに関してはトレーニングの成果です。ああいう拮抗した展開で点が入ったときは、相手が重心を前に掛けてくることが多いですから、追加点を奪えるチャンスも生まれます。それを生かせず、逆に追い付かれてしまいました。それまで相手のストロングポイントをしっかりとケアしていただけに、早い時間で同点にされたのは残念です。
また今季はセットプレーからの失点は少ないのですが、決勝点はCKからやられてしまいました。先制してからの逆転負けは今季初めてであり、しかも2万人を超える方に来ていただいたにもかかわらず、勝利をお見せすることができませでした。
その1週間後の鹿島アントラーズ戦は、今季の敗戦の中でも特に残念な内容だったと思います。それぞれの局面で相手に勝てなければ、試合の結果で相手を上回ることはできません。選手たちは自分の力を精いっぱい発揮したと思っていますが、戦いの中でこの相手に勝ちたいという気持ちが、プラスアルファの力になって競り勝つことができ、その繰り返しで成長していくはずです。
そういうプレーの強度を引き出すことも含めて監督の仕事だと思っていますから、非常に責任を感じています。
今季の目標である、来季のACL出場が果たせなくなってしまいました。ACLへの出場というのは浦和レッズとして常に目指さなければならないものですし、選手もそれを切望しています。私自身も強くそう感じています。またファン・サポーターのみなさんの熱量が一段と高くなる舞台であり、国内タイトルを狙うのとは別に非常に大事に考えている大会であることも痛いほどわかっています。
その場に浦和レッズが来季も立てないのは残念ですし、申し訳ない気持ちでいっぱいです。
私が監督として浦和レッズの指揮を執るのはきょうを含めて3試合となります。
監督が替わるということに、残り3試合を戦うモチベーションを左右される選手もいるかもしれませんが、それは間違いです。選手は自分がどこまでできるのか、どういう力を持っているのか、この3試合ですべて見せなければなりません。
それは自分勝手なプレーをするということではなく、チームの中でどういう役割を果たせるのか、ということです。すなわち、今季ここまで積み上げてきたものを、どう表現するか、ということなのです。
本日の相手、湘南ベルマーレは試合の開始から勢いを持ってやってくるチームです。また相手に押し込まれてからのカウンターも持っているチームです。
しかしスキは必ず出てきますから、そこをしっかり見極めて、我々がやるべきことを表現していきます。
ACLという目標はなくなりましたが、試合というのはそれ自体が選手のモチベーションであり、特にホームゲームで、コロナ禍の難しい状況の中、埼玉スタジアムにお越しいただいたみなさんに、全力で戦い、勝つところをお見せするというのは、我々が本来やらなければならないことです。
ケガ人が増えてきていることもあって、いつもと違う選手がプレーすることもあるでしょう。彼らへの後押しになる大きな拍手をお願いします。
筑波大学からソニー仙台FC(JFL)入りし、選手としてプレーした後、指導者の道へ。宮城県富谷高等学校サッカー部監督、筑波大学コーチ、水戸ホーリーホックコーチ、大宮アルディージャコーチを経て、2004年から浦和レッズ強化本部スタッフに。06年から10年まではコーチとしてリーグ優勝やACL制覇に寄与した。11年はベガルタ仙台のヘッドコーチを務め、12年から浦和レッズ強化部スタッフに復帰。13年から浦和レッズ育成ダイレクター兼ユース監督を務め、18年4月2日、トップチームの暫定監督に就任した。監督在任中はリーグ戦3勝1分け、ルヴァン杯1勝1分けの無敗で、オリヴェイラ監督にチームを引き継いだ。その後19年3月までヘッドコーチを務め、同年5月28日、1年1ヵ月ぶりに浦和レッズの監督に任じられた。今季も引き続き指揮を執る。
来季に向けてもやらなくては
○チームの目標が達成できないという状況で残り3試合を迎えることになる。
「今は選手一人ひとりの状況が違うので、非常に難しい時期です。しかしファン・サポーターのみなさんに良いプレーと結果を見せなければいけないのは変わりません。残りの試合は来季に向けて、チームとして見せなければいけないし、若い選手ががんばらなければいけない試合です。それを経験がある選手として引き出していきたいです」
○湘南はスピードのある攻撃が特長のチームだ。
「湘南は受けて立つと難しくなるので、自分たちがやってきたサッカーを続けるのか、結果を求めていくのかという整理をしなくてはいけないと思います」
熱くさせる試合をしたい
○湘南という前への推進力が強いチームに対してどう戦うか。
「湘南は、最近調子を上げてきて、勝ち点をかせいでいる印象があるので難しい相手だと思いますし、球際や運動量の部分で戦ってくるので、そこのところで後手に回らないようにして、しっかりと戦わないといけないと思います。ボールが行き来する、スピーディーな展開になると思いますから、コンパクトさを保ちながらも速い攻撃を仕掛けて、目指してきた形を作りたいと思います」
○残り3試合のうち2試合がホームゲームというところをポジティブにとらえたい。
「来季のACLという目標がなくなったのは悔しいですし、応援してくれている方々に申し訳ない気持ちです。今季見に来てくれた人をワクワクさせるような試合は少なかったかなと思いますが、残り3試合、特にホームの2試合は、みなさんを熱くさせる、良い試合を見せるためにがんばります」
積み上げたものを見せる場
○今季は試合に多く絡みながら、残り3試合というところまで来た。
「来季のACLという目標がなくなったのと、選手それぞれの契約の問題が入ってくる時期なので、今はみんなの向かう先が少しバラバラになりかける時です。しかし練習では、すごく良い雰囲気でできていますし、大槻監督から『残りの3試合で自分自身のプレーヤーとしての価値を高めるチャンスがある』という話をされて共感しました。サッカーというのは何があるかわからなですし、チャンスととらえてピッチに立ちたいです。
○湘南はスピードのあるサイド攻撃が持ち味の一つだ。
「湘南とのゲームはタフな試合になりますし、カウンターも得意でチームとして速い攻撃をしてきます。そこへの対策というよりは、自分たちも同じようなサッカーを目指してやってきていますから、走り合いとか攻撃の質で差が出てくると思います。開幕戦も難しい試合になりましたが、湘南とはそういう試合になると思います。負けたくない、という気持ちが特に強くなります」
○ホームゲームは残り2試合となった。
「コロナでなかなか多くの人がスタジアムに入れないホームゲームが続いていましたが、最近だいぶ入れるようになってきたときに、ホームでG大阪戦のような結果と内容の試合をしてしまいました。あと2試合ホームで戦えるのは、それを挽回するチャンスだととらえています。
今季はファン・サポーターのみなさんが満足する試合をあまりして来られませんでしたが、あと2試合のホームは、自分たちが今シーズン積み上げてきたものを見せる場だと思います。そういうプレーや結果を見せたいと思います」
PREMATCH DATA
清尾 淳 ● せいお じゅん
『最後まで追求するものは』
昨季は最後まで残留争いで気が抜けなかった一方、ACLでは決勝に進み3度目の優勝を目指していた。
一昨年は、12月初旬に準決勝、決勝が前倒しされた天皇杯で優勝を狙うモチベーションがあり、そして勝った。
2017年は、奇跡のような逆転勝ちを収めてきたACLで優勝を決めた。10年前に自分たち自身が注目度を格段に上げた大会だ。
2016年以前は言うには及ばないだろう。3年連続でリーグ優勝を争っていた。終盤にタイトルの可能性がなかったのは2012年?いや、ほとんどの年はリーグ終了後に天皇杯があることを考えれば、リーグ3試合を残すこの時期にタイトルの可能性が全くなかったシーズンを探すと、2009年までさかのぼらなくてはいけない。
今季の成績での目標はタイトルではなくACL出場権だった。昨季最終節まで残留が決まらなかったチームが、ACL出場権獲得を目標に掲げるのは一般的には違和感があるかもしれないが、チームのポテンシャルからすれば不思議ではないし、ACLは浦和レッズがいるべき場所になっていると言ってもいいだろう。
そして、現在は全く届かない位置にいるが、一つひとつの試合を振り返り、あと少しのところを何とかできていれば、勝ち点が10以上増えていてもおかしくなかった。そうすれば、この時点で目標をあきらめる必要はないし、天皇杯に挑戦する可能性も残っていたのだ。
「あと少しのところを何とかできていれば」
泣き言のようなセリフだが、それこそが今季のもう一つの目標だった。
目指すサッカーのスタイルを、監督任せではなくクラブ主導で言い表したのは、レッズ史上初めてと言っていい。
「個の能力を最大限に発揮すること」「前向きに、積極的に、情熱的に戦うこと」「攻守に切れ目なく、常にゴールを奪うためのプレーを展開すること」
この達成度は、勝ち点や順位と違って数字では表せないが、3年計画の1年目としてこの目標を、少なくとも追求していたシーズンだったということは言える。
「あと少しのところを何とかできていれば」
追求するだけにとどまらず、かなり実現できていたシーズンだと言うことができただろうし、勝ち点や順位も違っていただろう。
今季、順位の目標は達成できないが、チームの成熟に終止符を打つ必要はない。ここからの3試合、「あと少しのところを何とかする」ことに全力を傾ける。監督が交代しても、クラブとしてのサッカースタイルを追求し続けるなら、それは決して無駄ではない。むしろ、それが2022年、アジアの舞台に戻り、日本国内で優勝を争えるチームになっていく道だ。
湘南戦。埼スタのファン・サポーターの前でそれを誓う試合にしてほしい。
それが浦和レッズのモチベーションだと信じている。
★編集後記。全北現代、蔚山現代、水原三星、北京国安、上海申花、上海上港、広州恒大、シドニーFC…。アジアの「友人(笑)」たちをテレビで見ていると、なぜ自分たちがそこにいないのか少し不思議な気分にもなった。「ウラワはどうしたんだ?」とフッキとオスカルが会話していたかもしれない。2013年以降、レッズが2年続けてACLに出場しないのは初めてとなる。来季またこの悔しさをかみしめることだろう。それを自分の力にするために、残りの試合もテレビで見る。(清尾)