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24.11.08

不定期連載『Beyond』vol.4 いつか自分も助けられる存在に。丹野凜々香は一歩一歩あゆんでいく。

選手の思いや試合に臨む姿を伝える不定期連載『Beyond』。第4回は、丹野凜々香選手のコラムです。ぜひご一読ください。
(写真:ATSUSHI KONDO)


ちょっと視野が狭くなっていたのかもしれないーー。

丹野凜々香は、ベンチに座り、1点ビハインドをなんとか取り戻そうと戦う仲間の姿を目で追い、応援しながら、自身のプレーを振り返っていた。

2024-25 SOMPO WEリーグ第7節 ノジマステラ神奈川相模原戦。

3年目にして初のスタメンの座を勝ち取り、丹野はスタートからプレーした。

思いと覚悟を持って出場した試合だったが、チームは失点し、自身も何かを残せたとは言いがたいまま、ハーフタイムに交代を告げられた。


悪くはなかったと思う。
だが、足りなかったのも事実だった。


具体的に思い起こされたのは、前半20分のシーン。
共に先発出場を果たした後藤若葉が、相手陣内でプレスをし、ミスパスを誘発する。

相手選手が逃げるようなパスを選択したその先に、丹野がいた。

素早くターンをしてドリブルで仕掛ける。ゴールまで20mあまり。思い切って左足を振り抜いた。しかし、対面した先にいたもう一人のDFにあたってブロックされた。

対面のDFが背中を向けたその瞬間、シュートを放っていれば、また結果は違ったかもしれない。

ボールを一つ運び、持ち直した動作が、相手DFの寄せる時間を作ってしまった。

左足に残る確かなボールの感触が、後ろ髪を引くように丹野に自身のプレーを振り返らせた。

(写真:YOHEI KAMIYAMA)


チームはなんとか終盤に追いつき、勝ち点1を確保できた。

埼玉へと帰るバスの中で、丹野はふとスマホで監督の楠瀬直木の会見のコメントを見た。自分への評価が語られていた。

「彼女の特長を生かして、相手を抜き去ってシュートまで行ってほしいです。前半で交代したというのが評価ですが、彼女の才能は信じているので、温かく見守ってほしいです」

『前半での交代が評価』

確かにそうだよなーー、丹野はその言葉の意味を受け止めていた。



◆サッカー選手になる◆
(写真:ATSUSHI KONDO)

2003年7月10日生まれ。21歳。
青森県十和田市出身。

丹野は、幼いころに埼玉県三郷市に引っ越してきた。

サッカーを本格的に始めたのは小学5年生のころ。きっかけは何か特別なものがあったわけではない。

小学生のときにずっと一緒に遊んでいた男子たちが、放課後サッカーをやっていて、それに混じって遊んでいるうちにのめり込んでいった。

遊びでは試合がないため、少年団に入ろうということになり、遊んでいた男子たちと10人くらいでチームに入る。

小学生の卒業文集では、いずれサッカー選手となり、海外でプレーしたい、ということまで書くほどにサッカーが好きになっていた。

そして、周囲の選手たちと共に自然と上を目指し、中学生になると、レッズレディースの育成に加入する。生来備わっていたドリブルのセンスが買われてのことだった。

その後は順調にジュニアユース、ユースと進み、2022年、トップチームに昇格。念願だったサッカー選手としてのキャリアをスタートさせた。


だが、丹野自身は、順風満帆で歩んできたとは思っていない。

特にトップチームに昇格して1年目は、苦しい時間を過ごした。
試合に出場する、しないという判断のテーブルにすら、乗っていないということを自覚していたからだ。


◆うれしかった試合◆
(写真:HIROYUKI SATO)

そんな丹野がここ最近で最もインパクトを残したのは、AFC Women’s Champions Leagueのグループステージ第2戦、台中藍鯨女子足球隊戦だろう。

ベトナムで行われたこの試合は雷雨でキックオフ時間が遅れ、ピッチ内でのウオーミングアップの時間確保もないまま、なおかつ荒れたピッチでの難しいプレーとなった。

だが、彼女は躍動した。

積極的にドリブルを仕掛け、相手DFをかわしチャンスを作る。

もちろん、そもそもの相手選手との力の差もあっただろう。

しかし、ピッチコンディションなどさまざまなことを考えれば、十分に見る人の記憶に残る活躍ができたと言ってよかった。

事実、チームがPKを獲得し、56分に塩越柚歩が先制ゴールを入れるまで、勝ち点1を分け合う可能性もあった試合展開だった。

そして、躍動した丹野自身は先制から14分後、キャプテン柴田華絵の浮き球のパスを、ぬかるんだピッチでボールが止まる瞬間をうまく利用し、彼女らしく思い切りよく左足を振り抜いて、勝利を決定づけるゴールを決めた。

この試合は、丹野にとって感慨深い試合だった。

昨シーズンに行われたアジアの大会では、負傷中ということもあり、スタンドでチームの戦う姿を眺めることしかできなかったからだ。

ようやくアジアの舞台に立ち、結果も残せた。丹野にとって、うれしい試合の一つになった。


(写真:HIROYUKI SATO)


◆考えさせられた出来事◆

トップチームに昇格してからは、やはり結果を残していかなければならない。

育成時代であれば、ドリブルで相手を抜き去り、誰かに点を取ってもらうためにクロスを入れる。そんなスタンスでもよかった。

しかしプロリーグの世界では、それでは足りない。

攻撃の選手であれば、自身がゴールを奪い、結果を出してチームを勝たせなければいけない。自覚が芽生えていた。


だが、そんな中、自身にとってはさらに考えさせられ、成長させられる出来事にも遭遇する。

10月19日、ジェフユナイテッド市原・千葉レディース戦の前日の出来事だった。

レッズレディースの試合日のメンバーは、その前日の練習後、グループチャットで共有される。

丹野はその連絡を待っていた。

ベトナムでの試合で足を痛め、少しの間、離脱したものの、帰国後、比較的早く復帰して、トレーニングにも参加し、手応えを感じていた時期だった。

スマホがメッセージの受信を告げる。

画面をタップした。

スマホの調子が悪く、メッセージを開くまでに時間が掛かってしまうことに少しのストレスと、一方で期待を感じながら、スマホ画面を見つめた。

メッセージが開く。その画面の中に映し出されたメンバーに、自分は入っていなかったーー。

隣には、同じくメンバー入りできなかった後輩の選手がいた。

「明日のトレーニング、がんばろう」

自分にも言い聞かせるように、そう一言、声を掛けた。



◆仲間に助けられて◆

だが、その後、しばらくして、ロッカールームで丹野は涙を止めることができなかった。

成長しなければならないという思いと少しずつ進んできたという自負。自分がチームの力になりたい、そうした強い思いがあったからかもしれない。

しかし、そんな丹野を見て、代表選出もされている先輩が一言、声を掛ける。

「なんで泣いているの?もう入れると思っていたからなんじゃないの?」

厳しくも愛のある言葉だった。

確かにそうだったかもしれない。
選手であれば試合に出て、プレーするのが当然でそこを目指している。

だが、このチームは競争が激しく、ましてやリーグ連覇を成し遂げているチーム。それが当たり前ではなく、日々、一日一日が競争になる。

そうした意識が少し薄れかけていたのかもしれない。まだまだやらなければいけないことがあったのだ。

だからこそ、翌日の練習では、今からでもメンバー入りができるぞ、と感じてもらえるほどに元気に、集中してトレーニングに打ち込んだ。

そして、翌週からのトレーニングでも積極的にプレーし、練習ゲームでもトレーニングマッチでもゴールを決めた。

その結果が、N相模原戦の初スタメンだったのだ。

丹野は、壁にぶつかりながらも一歩一歩、前進してきているのだ。


◆このチームで活躍し成長したい◆
(写真:ATSUSHI KONDO)

サッカーはチームスポーツだ。

丹野は、サッカーの、チームメイトと喜んだり、ナイスプレーと声を掛け合ったり、人と人とのつながりを感じられるところがとても好きだ。

だから、このチームでよかったと思う。
誰かが困っているとき、悩んでいるとき、苦しい状況にあるとき、必ずチームメイトが声を掛け、助けてくれる。

時には厳しい言葉であり、目を背けたいこともあるかもしれない。だが、そんな言いづらいことでも、先輩たちや仲間は声を掛けてくれる。

だからこそ、まずはこのチームで活躍し、成長したいと思う。


◆今、この瞬間が大事◆

大好きなお笑いを見るとき、本当にこの人たち(芸人)はすごいな、と思う。
見ている人を元気にし、一時でも幸せにできるからだ。

ひるがえってサッカー選手である自分も、同じように誰かに影響を与えられる存在になれるかもしれない。

今でさえ自分のプレーを見て、勇気をもらえました、元気になりました、と声を掛けてくださる方がいる。

もちろん、簡単にはいかない。
少し成長できた、と思うと、またすぐ壁にぶち当たってしまうこともあるからだ。

だが、なんとかなる、と思える自分もいる。
そして、みんなに助けられながらも、前向きに取り組むことで一歩一歩進んでこられているとも思っている。

確かにN相模原戦は前半での交代だった。そのときの評価はもう下っていて、覆らない。

だが、だからこそ、今、この瞬間が大事なのだ。

11月9日(土)、サンフレッチェ広島レジーナ戦。
自分はメンバーに入れているかわからない。

それでも、やるべきことは一緒だ。
目の前のことに全力で取り組み、丹野凜々香らしくプレーすること。

それを続けていれば、きっと、助けてくれた先輩や仲間を、今度は自分が助けられる存在になれるはずだ。

その自分を目指して、丹野凜々香は今日もグラウンドへと向かう。彼女らしく、軽快に、決意を込めてーー。

(URL:OMA)

(写真:ATSUSHI KONDO)





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