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24.11.15

不定期連載『Beyond』vol.5 みんなで勝利の瞬間を味わうためにー。島田芽依が抱く思い。

選手の思いや試合に臨む姿を伝える不定期連載『Beyond』。第5回は、島田芽依選手のコラムです。ぜひご一読ください。

(写真:ATSUSHI KONDO)

信じて蹴ってくれるはずーー。

2024-25 SOMPO WEリーグ第8節、サンフレッチェ広島レジーナ戦。

73分、塩越柚歩がコーナーキックを蹴り込む直前だった。

PKマーク付近に位置した島田芽依は、長嶋玲奈のサポートを受けながら、マークを引き剥がすと、勢いよく飛び出した。

塩越を信頼し、ニアを目指す。ボールは弧を描いて自分に向かってくることがわかった。

身体が反応する。

頭でしっかり捉え、ゴールネットを強く揺らした。

貴重な決勝点となるゴールだった。

チームメイトが駆け寄り、祝福をする中、島田はうれしそうな笑顔とともに、安堵の表情を見せた。

今シーズン、FWの軸として出場し続け、だが、この試合では途中出場となった島田の、開幕戦以来、約1か月半ぶりのリーグでのゴールだった。


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◆覚悟が決まった瞬間◆

今シーズン、島田は強く自覚したことがあった。

育成から昇格して4シーズン目のキャリア。絶対的なストライカーとして君臨していた菅澤優衣香も負傷で離脱からのスタートとなり、自身が成長し、結果を出さなければならないと考えていたのだ。

「試合に出るとなったときに、優衣香さんをはじめ、ケガをしている選手たちに顔を合わせられないようなプレーをしてはいけないと思っていて」

「それに優勝を争うようなクラブでプレーしているということは、競争があって、自分たち若手がどんどん底上げをしていかないと強さを継続できないですし、経験ある選手たちを押しのけて試合に出るくらいじゃないといけないと考えていました」

加えて、開幕前、WEリーグのプレスカンファレンスにもチームを代表して出席した。クラブからもそうしたメッセージが送られていると感じたのだ。

「そうした役割を与えてもらったことにプレッシャーはもちろんありましたけど、自分が強くなったりうまくなったりするためには、そのくらいはやらないとという気持ちでした」

「覚悟はそのときに決まったというか、やらなければいけないと思っていました」



◆自分の足りないところが全て出た試合◆

(写真:YOHEI KAMIYAMA)

しかし、開幕でのゴール後はなかなかリーグで点が奪えず、次第に昨シーズン前半の得点できなかったころと同じような嫌な感覚を帯びるようになる。

「点が取れなくなると、よくなかったころの記憶が蘇ってくるじゃないですけど、余計なことを考えることが多くなってしまいました」

「周りからは自信を持てと言われるんですけど、自分自身としてはできないことが多いなって」

その極みが、11月3日のノジマステラ神奈川相模原戦だった。

先発出場し、85分までプレーしたが、自身がチームに貢献できたとは到底思えず、FWとして1点のビハインドを返せずに交代する。チームは終盤、高橋はなのゴールで、なんとか引き分けに持ち込んだが、優勝を目指す上では勝ち点2を失った試合と言ってよかった。

その試合のミックスゾーン、質問に答えながら、思わず涙を抑えることができなかった。

「自分のプレーの部分で満足いかないことが多くて、悔しくて泣いてしまいました」

「試合に引き分けたことももちろんそうだったんですけど、やっぱり自分のプレーに満足いかないことが多くて。あの試合で自分の足りないところが全て出たというくらい、よくなかったなと思ったので」



◆「代えないでください!」◆

ふだんの島田を見ていると、とてもやさしく柔和な雰囲気を持っていて、おだやかな印象がある。しかし、ここまで話を聞き、状況を見ていると芯の強さがあると感じる。

現在、育成統括で、島田の育成選手時代に指導にもあたった神戸慎太郎に話を聞くと、彼女の性格を次のように紹介してくれた。

「すごくやさしい選手ですね。他者への怒りとかそういう言葉は彼女にはあまりそぐわないです。でもーー」

「自分への悔しさは非常に感じて、感情を出せる選手です」

神戸には忘れられないシーンがある。

今から、7年前ーー。

2017年の7月に行われた第22回全日本女子ユース(U-15)選手権大会。夏の全国大会の決勝で見せた島田の姿だった。

30分ハーフの試合で、後半の15分が過ぎようとしていた。

中学3年生だった島田は、それまでの試合でもまだ体力的に難があり、おおよそその時間帯での交代が多かった。

監督だった神戸はこれまでどおり交代を用意しようと、リザーブの選手にアップを指示する。

すると、島田がタッチライン際まで来て、必死に訴えてきた。

「大会記録の得点を追い越したいから代えないでください!」

そのときの島田は決勝で1点を取り、通算10得点。神戸の記憶では、大会記録を塗り替えるにはあと2点が必要だった。

神戸は苦笑しながら、「じゃあ、早く取ってきなさい」と言って送り出した。

どちらかというと、おっとりとしているな、と少しの物足りなさを感じていた神戸にとって、島田が必死に訴えてきたことがうれしかった。

結局、その試合では1得点に止まり、大会記録に届かなかったが、島田を表すエピソードとして、神戸は懐かしそうに語る。

「あのころと今も基本は変わらないですよね。ふだんはふんわりしていますけど、しっかりと思いは持っています」
※当時の試合結果はこちら


◆苦しかった1年目◆

そんな島田は、自身のプレーに対してどのように感じているのだろう。

数字を見れば、順調に試合に出場し続けてきているが、得点を見ると1年目はゼロが記載されている。

「1年目がやっぱり一番苦しかったというか、なかなかうまくいかないことの方が多かったです。育成時代から見ていたレディースのトップチームという立場になったときに、やっぱりレベルの高さは痛感しましたし、そこでプレーするという責任感をもっと強く持たなきゃいけないなと感じていました」

「ただ、そのときに光さん(猶本)にいろいろと教えてもらえて、守備面では成長できた実感がありました」


◆ターニングポイントとなった公式戦初ゴール◆

(写真:URAWA REDS/2022年9月25日EL埼玉戦) ※当該試合のハイライト

そして、2年目以降は攻撃面でも成長を遂げる。8得点を挙げた2年目に続き、昨シーズンは9得点。WEリーグの得点ランキングで3位に名を連ねた。

そのきっかけとなったのが、尊敬する菅澤優衣香のアシストでゴールを決めた公式戦初得点だった。

2022-23シーズンのWEリーグカップグループステージ第6節ちふれASエルフェン埼玉戦。

塩越の背後へのワンタッチパスに、菅澤が抜けだし、右サイドから折り返す。島田はゴール前に走り込み、身体を投げ出して、ゴールマウスにボールを蹴り込んだ。

「優衣香さんが初ゴールをアシストしてくれました。その得点からすごく意識が変わったかなと思っています」
「その結果、リーグでも取れるようになっていきました」

菅澤からは、ゴールを決めるための動きについても多くのことを学んでいる。

「優衣香さんはゴール前の動き出しとか、ゴールを決めるための動きというのがすごいんです。お手本になることばかりで、その動きのことを聞いたりとか、相手DFとの駆け引きのポイントを教えてもらってからは、徐々に点が取れるようになっていきました」

「もちろん今も優衣香さんのようにできているかと言われたら、そうではないんですけど、今もその課題を改善するために、優衣香さんに質問をしに行ったりとかはしているので、いろんなことを吸収したいと考えています」



◆単純に仲が良いということではない◆

(写真:ATSUSHI KONDO)

先輩たちに支えられてきた島田は、レッズレディースに対する思いをこう話す。

「チーム全員が他の人のために頑張れて、試合中もネガティブな声が出ないんです。みんながみんなのことを思ってカバーし合いながらプレーできます」

「先輩たちがみんないい人たちばかりで、自分たちも好きにやっていいよと言ってくれるので、すごくプレーしやすいですし、その他の場面でも気楽に話せるような、プレーのことも、そうじゃないことも、コミュニケーションが取れるチームだなと思っています」

だが、次のようにも話す。

「でも、単純に仲が良い、ということではないんですよね。」

「下からもすごく意見を言えますし、先輩たちがそういう環境を作ってくれているんです。だからうまく回るし、試合に入りやすい環境を作ってくれている。そういう環境だからこそ、一緒にプレーするとみんなのために走れて、それはすごく大きなことだと思います」

単なる仲良し集団ではなく、上を目指すために互いを高め合える組織、ということだろう。

だからこそ、島田は責任感も口にする。

「サッカーをやりたくてもできない状況の選手もいますし、メンバーに入れない選手もいる中で、全員で戦うという意味では、試合に出るからにはレッズというクラブに恥ずかしくないようなプレーをしなければならないと思っています」



◆大宮V戦という特別な試合◆

今節は、大宮アルディージャVENTUSとの一戦になる。同じさいたま市に本拠を構えるクラブとの対戦だ。

「やっぱり男子のさいたまダービーを今まで見てきているので、負けられないという気持ちはもちろんありますし、自分の中では特別な試合だと感じています」

さらに、シーズンの重要な試合としての意識も高い。

「ここから連戦になって、身体的にもきつくなってくるときもあると思います。その中で連戦を落とすと流れが悪くなったり、逆に勝っていけばそのまま流れが良くなっていけると考えています。
 だからチーム全員で1試合1試合しっかり戦うしかないと考えていますし、この後の試合を考えると、やっぱり絶対に勝たなければいけない試合です」


◆心を揺さぶる風景◆

(写真:ATSUSHI KONDO)

おそらくファン・サポーターもこの試合には特別な思いを持っているだろう。
島田は、チームを支えてくれるファンやサポーターの存在の大きさを実感し、彼らのためにも戦いたいと話す。

「やっぱりホームでもアウェイでも多くの方たちが来てくれてありがたいです。試合中もきつい時間帯に声を聞くと自然と足が出ますし、自分たちの背中を押してくれているなと感じています」

「そういう方たちをもっと増やすためには、自分たちが結果を出し続けて、魅力のあるサッカーをしていかないといけないですし、そういう来てくれた方たちと勝って喜び合うという瞬間がすごく好きなので、その瞬間を増やせるように頑張りたいです」

特に、ホームスタジアムである浦和駒場スタジアムでの風景は島田の心を揺さぶる特別なものだ。

「浦和駒場だと、ゴール裏を見るだけで力が湧いちゃってるんですよ。今日も大丈夫だなって気持ちにすごくさせてくれるんです」

(写真:ATSUSHI KONDO)

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島田は、インタビュー中、ときおり、間を取って一つひとつ丁寧に考えながら、真摯に答えてくれた。

最後に島田がサッカーを続ける理由を聞いた。
彼女は笑顔を見せながらも少し困ったような表情をして、こう答えた。

「難しい質問ですね・・・。勝つためにみんなでやっていて、やってきたことが出せて勝てたときとか、すごく気持ちが入った試合で勝てたときとか、そういうときにやっていてよかったな、またこういう瞬間を増やせるように頑張ろうと思うんですよね」

(写真:ATSUSHI KONDO)

前節のS広島R戦。

島田が得点した直後、駆け寄ったチームメイトは、単純に貴重な追加点が入ったから喜んだ、という以上の喜び方をしていたと思う。島田が成長するため、苦しみ、もがきながら、プレーしていたことを知っていたからだと思う。

そして、ファン・サポーターからの声援も彼女にとってはかけがえのない糧になったはずだ。

大宮V戦。

背番号15のFWがピッチに立ち、思いをどう表現してくれるのか。ぜひ、期待して見てほしい。

(URL:OMA)


(写真:ATSUSHI KONDO/試合前のチーム全体での掛け声の風景。その中心には島田がいる)


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