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25.01.24

不定期連載 『Beyond』vol.7 栗島朱里がサッカーを続ける理由

選手の思いや試合に臨む姿を伝える不定期連載『Beyond』。第7回は、皇后杯決勝を前に栗島朱里選手のインタビューになります。サッカーを続ける理由、勝ちたいと思う気持ち、仲間への思いなど、さまざまなテーマを話をしてくれました。ぜひ、ご一読ください。







皇后杯決勝前のインタビューは、“仲間”に関するテーマで始まった。

「誰と働くかって本当に大事だと思う」

世間話的なアイスブレイクの中で、ふとセカンドキャリアに話題が移り、何をするかも大事だが、誰と働くかもとても大事、そんな話を互いにしたとき、栗島朱里は、一気に熱量を上げて、いまのチームへの思いを語った。


「それ、本当に大事だと思っているんです。

私が、なぜ、こんなにサッカーを楽しくできているかと言ったら、本当にこのチームだから。

このチームでなければ、ここまで本当にサッカーをしたいって思わないし、みんなとだから、みんながいるからなんです。

この今のチームメイトがいるから頑張りたいと思えるし、頑張れるんだけど、そうじゃなかったら、ここまでサッカーに熱量を注げるかわからないなと」

「私自身は個人競技はたぶん向いていないんです、性格的に。みんなで何かを成し遂げるということが好きなんですよね。だから、サッカーにのめり込めているというのもあると思います」


ボルテージが上がり、早口でまくし立てるように話したその姿に、この選手は本当に人を大切にしているのだなと感じた。





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◆“ただのパス&コントロール”にしない◆




ーー人や仲間を大切にする栗島選手の様子は、後輩選手との接し方やチームのムードを盛り上げる振る舞いをしている姿からも感じます。よくアドバイスもしていると思いますが、後輩の選手たちにはどのように接していますか。


「やっぱり自分自身がケガでプレーできていない時間や自分がうまく行かない時期があったじゃないですか。

ずっと自分の思ったとおりにプレーできていたら、そういう人の気持ちってなかなかわからないと思うんですよね。

だから、若手にこれをこうした方がいいよとか、頭ごなしには言わないです。

その子も自分の中で模索してそのプレーを選択したのに、それを頭から否定はできないというか。

もちろん、絶対に言った方がいい状況のときは伝えるようにしているけど、このチームは誰かを頭ごなしに怒ることをしなくてもできるチームだから、尊重して伝えるようにしています」

「でもそれは梢(安藤)さんはじめ、先輩の選手たちの懐が広いのもあると思います。年下の選手たちが生き生きプレーできるようにしてれるし、要求はするんですけど、若手に対して萎縮してしまうような言い方とかはしないんですよ」


ーー具体的にはどういうときに伝えていますか。

「たとえばパス&コントロールのときに、ある選手が首を振って周囲の状況を確認していなかったら、そういうのは指摘します。

パス&コントロールのメニューを“ただ”のパス&コントロールにしていたら、一生“ただのパス&コントロール”になっちゃうじゃないですか。そこはもっと突き詰めないといけないということは伝えます。根気強く。

でも本当に変わろうと思ったら、自分で気づくしかないから、そういう意味では言いすぎないようにもしています」

ーー伝えたことが、そのときすぐに生かされるというより、後々に気づいて生かされるということもありますよね。

「そうだと思います。私自身もそうした経験があるんです。

ジュニアユース時代に渡辺隆正さん(現ヴィッセル神戸コーチ)が指導してくださっていて、あるとき『朱里は武器を見つけた方がいい』って言われたんです。中学1年から2年生のときだったと思います。

そのときは、武器って何?って理解できなかったんですけど、数年後に、あれ、武器必要だ!と気づいて(笑)。でも私自身は武器がないなと思ったから、能力を六角形とかで表すとしたら、まんべんなく広げようと。

清家(貴子/現ブライトン・アンド・ホーヴ・アルビオン)だったら、スピードのところがバコーンとかって突出するじゃないですか。

私は全体を広げようと。まあ、意識したわけではなく、そうなっちゃったという感じもあるんですけど(笑)。

武器があったら、それはそっちの方がいいですよね。点を取れるとか、足が速いとか」


ーーでも育成時代に指導していた神戸慎太郎育成統括に話を聞くと、栗島選手は右足のFKを隠しているとおっしゃっていました。

「そうです(笑)。隠してます、30歳まで!。隠しすぎだろって感じですよね(笑)」

「でもそれでいいんです。チームが必要とすれば、私が蹴りますけど、別の選手が蹴るんだったら、じゃあ、お願いします、という感じです。私、蹴れるよ!はやらないです」


ーーそれは性格的に、自分よりもチームということですか。

「そうですね、そうだと思います」

「でもやっぱり、ここで自分が蹴る!と言える選手もいるじゃないですか。それは本当にすごいと思います。私はそれができないから」


◆原理原則に忠実◆




ーーボランチをしているときなど特にそうだと思うんですが、ボールの出し入れなどでゲームコントロールをしますよね。あのあたりはどう学んだんでしょうか。相手のシステム変更などについても、すぐに察知して対応すると、楠瀬監督もおっしゃっていました。

「どうだろう。それも感覚っぽいところはありますね。

この間の試合も、寺口コーチから相手4バックだよ、と、キックオフのときに言われたんですけど、言われる前に気づいていました」

「状況を見て、プレーしているという感じなんですけど、それを特別意識しているかというとやっていない気はします。

相手がこうだから、こう動こう、こう来たから、こうポジションとろうという感じです」


ーーそうしたことに気づける選手と気づけない選手がいますよね。

「それはそうだと思います。相手が嫌なことは何かなとかそういう感じでプレーしていて、そのあたりはちょっと言葉にするの難しいんですよね」

「でもそれこそ、なんとなくトレーニングをしていると、それすら手に入らないわけじゃないですか。

だからたとえば自分が対峙して、うわ、これ嫌だなって思うと、それを次から自分がするという感じです。

あとはシンプルにうまい選手のプレーをマネするとか、次の自分のプレーに落とし込むとかそういう感じで来ていますね」


ーー誰かロールモデルになるような選手はいたんですか。

「特にこの人、というのはいないですね。あ、この人のこのプレーがうまい、と思うと、そのプレーはインプットする、という感じです」





ーー今シーズン、栗島選手のプレーで非常にすばらしいなと思った試合がありました。11月9日のサンフレッチェ広島レジーナ戦で、マッチアップした代表選手でもある中嶋淑乃選手に良さを出させませんでした。そのあたり、特に準備したものはあったんでしょうか。

「特別な準備はしていないです。ただ、プレーのイメージはしていました。意識していたのは、中嶋選手は足が速いので、まずスピードに乗らせないようにしたい、ということ。相手がビルドアップしているときに、足元で受ける状況だったら、トラップした瞬間になるべく速く寄せる、前を向かれてスピードに乗られたら、あえて距離を取って、周りのサポートを待つ。後ろを向いていたら強く行く、という感じで、自分一人で抑えようとは思っていませんでした」


ーーとてもシンプルに整理されていますね。原理原則に忠実にプレーすることをイメージしていたと。

「そうですね。まあ、そういうのも考えすぎてはいないんですけどね。

うーん、原理原則に忠実な女という感じですね(笑)」

「ただ、そういう経験を学びに変えているというのはあるのかも。そういうのをただ流してしまうケースもあるじゃないですか。それをちゃんとモノにできている感じだと思います」



◆自分よりもチームのために◆



ーー今シーズンはサイドバックでの出場が多くなっています。

「このチーム状況で有希(水谷)が負傷してサイドバックが空く状況になりました。誰がやるか、となったときに、私がそこに入ってチームが一番落ち着くということなら、全然問題ないです。やらせてください!という感じだし、逆に他の選手がサイドバックに入って私が真ん中にいた方がいいということになるなら、やりますという感じです」

「だからプレーに関しても、このプレー絶対したいからこうして、とかもないんです。たとえば智子(藤﨑)がサイドハーフなら智子が生かせるようなパスを出したいし。

そういう意味では自分が生きる道というのはそんな感じなんだと思います」


ーー潤滑させるという意味でとてもキーになっている印象です。

「もちろん生まれ変わったらストライカーになりたいですけどね(笑)。でも自分の性格的にも今のスタイルが合っていると思います」


ーーそんな栗島選手にとって、サッカーはなぜ好きなんでしょうか。

「なんだろうなあ。

野球の大谷翔平選手が言っていたことで、とても共感したことがあったんですけど、スポーツは競技レベルだと勝たなければ楽しくない、と言っていて、もう納得しすぎたところがあって。本当に勝たなければ楽しくないんですよ。

リーグで引き分けが続いたときに本当に落ち込んだんですけど、やっぱり勝っているから楽しいというのがあるというのをあらためて感じたんですよね。全部が全部、勝たないと楽しくないというわけではないんですけど」

「それと勝つと、自分の中だけで楽しいじゃなくて、周りの方たちも楽しいと思ってくれるじゃないですか。だから勝たなければいけないと思っています」

ーーサッカーをしていて最も好きな瞬間ってどんなときですか。

「えー、なんだろうなあ。

やっぱり試合中に点が入って喜ぶときじゃないですかね」



ーーじゃあ、大宮アルディージャVETNTUS戦で得点したときとかですね。

「ああ、もう最高です!あんなの本当に最高!

でも、自分がとかじゃないんです。誰が取っても、みんなでゴールを喜んでいるときが本当に大好きです!」





◆同じ思いをしたくなかった◆



ーー1月18日に行われた皇后杯の準決勝、INAC神戸レオネッサ戦はとてもよい形で勝利ができました。この試合についてはどんな気持ちで臨んでいましたか。

「あの試合は、もちろん、去年ああいう悔しい負け方をしたじゃないですか。それと今シーズンのホーム開幕でも負けていて、もうI神戸相手に負けたくないし、同じ思いをしたくないという気持ちがありました」

ーーI神戸の強さを出させない流れになりました。

「そこまで嫌な感じはしませんでしたし、ちょっと相手自体も良さが出せていないのかなと感じていました。後半にはより勢いがなくなったので、さらに試合を優位に進められた部分があったと思います。後半キープレーヤーを下げてくれたのも大きかったかなと思います」

「ただ、それも前半、キーの選手に良さを出させなかったことで相手の監督が判断したので、こちらの流れを作れていたと思います。

最後は大きいFWの選手や成宮選手を使ってくるという狙いだと思っていたし、こちらもそこは警戒していて、前半もちょっと嫌なところがあったんです。監督からも警戒するよう指示がありましたし。でもDF間でもコミュニケーションを取って対応できました」

「それとハイプレスという感じで、相手は前線の選手がプレスに来ていたんですけど、全体では来ていなくて、はな(高橋)の周りのスペースがすごく空いていたんです。なので、自分はアバウトでも彼女に送ろうとプレーしました。そこで彼女のキープ力で前進できたという感じです。はなは本当にすごいと思います」



◆気持ちは熱く、頭は冷静に◆



ーー決勝の相手はアルビレックス新潟レディースとなります。リーグでは0−0で引き分けた相手になります。

「前回対戦時の反省は生かしたいです。ちょっと攻めあぐねた感覚があったので。背後を狙うことを忘れないとか、攻撃のタイミングをみんなで共有するとか、そうした原理原則が大切だと思っています」

「あとは、ここまで来たら、技術うんぬんというよりは気持ち!が大事なので。さっき言った攻撃のタイミングとかの部分はしっかり準備して出せるようにするのと、どれだけ相手よりも強い気持ちを持てるかだと思っています」


ーー何度かタイトルを獲る経験をしてきていますが、そうした瞬間はやっぱりなにものにも代えがたいですか。

「最高なんですけど、実は私、2014年のリーグ優勝のときも前十字をケガしていて、森さんが監督のときにリーグ優勝したときもちょっとコンディションの部分で不完全燃焼で、リーグカップを優勝した2022-23シーズンのときもけがをしていたんです。

昨シーズンのリーグ優勝したときは、シーズン後半でようやく自分らしいプレーができて優勝できたから、ようやく獲れたという感じだったんですよね」

「しっかりと貢献できたという感覚で獲れたタイトルは昨シーズンのリーグとアジアのタイトルくらいからという印象なんです」

「だからこそ、この皇后杯も優勝したいです。この間、高校サッカーの決勝を見ましたけど、準優勝だってそこまで行っているからすごいとは思うけど、やっぱり優勝と準優勝では雲泥の差じゃないですか。

だから、気持ちは熱く、頭は冷静に行きたいと思います!」


ーー最後に常に後押しをしてくださっているファン・サポーターのみなさんに対してはいかがですか。

「最初の方の話で、私自身、みんなと何かを成し遂げることが好き、と話しました。だからチームメイトともそうなんですけど、それはもうファン・サポーターのみなさんも一緒だなと思っています。

リーグで引き分けが続いたとき、私はゴール裏への挨拶で、本当に悔しくて、泣きそうになっていたんですけど、サポーターのみなさんが『下を向いている暇はない、ここで終わらないぞ、次だ次』というような声を掛けてくれたんですよ。それに自分は心を打たれて、本当に頑張ろうと思えました。

だから私たちだけだったら、下を向いてしまうような状況でもファン・サポーターのみなさんは前向きにしてくれる、その言葉を直接もらえるというのはめちゃくちゃありがたいことだし、連続したアウェイのときにも来てくれるじゃないですか。

それって本当にすごく貴重なことだと思います。昨年末から長崎、兵庫、香川と続いた中でも来てくれて、そういうのを見ていると、それこそ人生を懸けてくれているんだなと感じます。

その熱量に応えるためには自分たちは勝って、結果で喜んでもらう以外に恩返しの方法が見つからない。だからこそ、このタイトルもしっかり獲りたいですし、そういう人たちのことを思うと、獲りたいという思いがボンって跳ね上がりますよね」




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皇后杯というタイトルが懸かる試合を前に、誰の言葉を聞こうかと考えたとき、栗島朱里という選手がふさわしいのではないか、と考えた。

小学2年生からサッカーを始め、ジュニアユース年代からレッズレディースに所属するクラブ在籍18年の生え抜き。

ピッチ外で見せる明るくお茶目な姿とは裏腹に、ピッチでは高い技術と戦術眼でチームに質と知性を加え、なにより、人の思いを大切にする選手だと感じていたからだ。

“仲間”と何かを成し遂げることが最も自分にとって大切、という背番号6のユーティリティープレーヤーが、さまざまな思いを力に変え、皇后杯決勝という舞台でプレーする。

その先にどんな景色が待っているのか。ぜひ、注目して見てほしい。

(文=URL:OMA/写真=近藤篤)







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