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不定期連載『Beyond』vol.8 「誰よりも仲間を思うストライカー 高橋はなの思い」
選手の思いや試合に臨む姿を伝える不定期連載『Beyond』。第8回は、AFC Women’s Champions League 準々決勝を前に、高橋はな選手のAWCLや浦和レッズに対する思いをお伝えします。
ぜひ、ご一読ください。

「まず本当にチームは全員がふだんから頑張っていますし、この試合も頑張っていました。守備陣には今日の試合も含めて毎試合助けられているので、ミスとは思ってほしくないです。私のところでもチャンスがありましたし、決定力をもっと突き詰めていきたいです」
『2024-25 WEリーグ クラシエカップ 準決勝』サンフレッチェ広島レジーナ戦。試合後、高橋はなは取材を受けるミックスゾーンで上記のように述べた。
質問は「自分たちのミスで3失点し敗退になったが?」という内容だったと思う。
この日の試合は明らかなミスからの失点もあり、前半を終えて0-2という苦しい展開だった。
後半、なんとか高橋の2得点で追いついたものの、最後は延長で突き放され、タイトル獲得を目指したカップ戦に敗れていた。
通常こうしたシーンでは、少なくない選手がチームメイトを守る発言やチーム全体の責任を述べる一方で、それは当たり障りなく、波風を立てないために、デフォルトでそう応えるようなケースということも多々ある。
だが、彼女の言葉には真情がこもっていた。
真実性のある声音、質問者をしっかりと見据える強いまなざし。そして、他者ではなく、自身の責任に言及した発言。
「ミスとは思ってほしくないーー」
この選手は本当にチームや仲間を思いやり、行動している。そう感じた瞬間だった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
◆一点の曇りなく歩む道◆

サッカーをはじめたきっかけを、実は本人もあまり覚えていない。
2つ上の兄の影響で始めたことは確かだが、気づいたときにはサッカーが生活の一部になっていた。
小学2年生で地元の女子サッカーチームに入り、その後、現在マンチェスター・シティWFCで活躍する長谷川唯を輩出した戸田市のチームへと移籍する。
中学に上がるタイミングで、浦和レッズの門戸をたたき、レッズレディースの育成に加入。
本人曰く「中学とか高校では学校にちゃんと行かないと、サッカーをプレーさせてもらえないじゃないですか。だから、そのために学校に通っていました(笑)」というほどに、サッカーにのめり込んだ。
誰もが通りそうな「辞めたい」と思う機会も彼女には無縁だった。
「サッカーがあるのが当たり前というか普通すぎて、辞める選択肢がなかったかも。違うことをやりたいとも思わなかったです」
「あとはやっぱり大好きな兄が高校までサッカーをやっていたんですけど、その背中を追いかけていたのと、親も応援してくれていたし、友達とかも学校にもいましたけど、やっぱりレッズの仲間の方が一緒にいる時間が長いし、仲が良かったからみんなに会いたいみたいな感じで過ごしていたと思います」
高橋は一点の曇りもなく、サッカーと共に歩んできた。
◆ストライカーとしての輝き◆

今季、高橋はストライカーとしてのプレーでチームに大きく貢献している。
3月15日に行われた大宮アルディージャVENTUS戦では、相手の状態を見極めたプレスでDFのミスを誘い、ショートカウンターを発動。
奪取したボールを少し運んだ後、伊藤美紀にボールを預け、ふたたびゴール前で受け取ると、トラップから素早く右足を振り抜いたコントロールショットで、ゴールネットを揺らした。
「あのシュートは、その週に練習でやっていた形だったんです。だから練習でやっていた感覚のまま蹴った感じでした」
勝利をたぐり寄せた貴重な先制弾は、彼女の今季公式戦通算得点を二桁に乗せるものだった。
FWとして得点源となり、他チームの警戒具合から見ても、明らかに特別な存在感を発揮しつつあると言える。
だが、高橋はきっぱりと否定する。
「自分自身は、そうは思わないです」
そして続けた。
「みんなのおかげで楽しくやらせてもらっているというのが大前提です。欲を言えば、もっともっと得点しないといけないと思っています」
「私、全部ができるようになりたいんです。全部ができれば一番最強だと思うから。キープもできる、ドリブルもできる、シュートもどこから打っても入るくらいに」
◆高橋が大切にしているもの◆

だが、その前に高橋には大切にしている考え方がある。
「自分自身、まずは個人が頑張んなきゃいけないと思っています。自分の中でやっぱりめっちゃうまい選手になりたいですし、そこは絶対諦めていなくて、これから練習あるのみという感じなんです。技で何か見せられたりとか華麗なプレーをたくさんできる人の方がやっぱり魅力的ではあるかもしれないから」
「でも自分が、じゃあ、今すぐ何ができるかとなったときに、闘うところであったり、最後まで走ることだったりで、少しでも味方が楽になるなら、そこ私が走ります!ってもう手を上げてもいいくらいなんです」
「もう責任ですよね、それは」
「自分が出られていることも当たり前じゃないし、それで悔しい思いをしている選手もいるから。一番悔しいのは結局、試合に出られなかった選手たちだと思うんです。そういう選手たちにも出ている選手は、何かを感じ取ってもらえるぐらいやらなければいけないと思うんですよね、絶対に」
「そうすれば、もしそれで試合に負けたとしても、出ていない選手たちも、頑張らなくちゃって思ってくれると思うんです。そしたら、きっとチームがもっと良くなっていく。
レッズに入って、先輩たちを見て、良い指導者に出会って、そういうのを教えてもらって、ピッチ上だけではないところも含めて、やっぱりそれがこのクラブを背負う責任なんじゃないかと思っていて。だから、そこだけは絶対やりたいといつも思っています」
◆浦和レッズとアジアへの思い◆

仲間やクラブを第一に思う姿勢。
そんな彼女にとって、浦和レッズが大切にしているアジアの大会を獲る意味をどう感じているのだろうか。
「シンプルに言うと、他のチームに獲られたくないです(笑)」
「言葉にするのは難しいんですけど...。他のチームがアジア1ってシンプルにすごく嫌で(苦笑)。浦和レッズがアジア王者は似合いますけど、他のチームはちょっと...と思っていて」
「浦和レッズと言えばアジア。ACLを獲るのは浦和レッズ、というのを小さいころから見てきたから、獲らなければいけないよね、レッズは、と思っています」
高橋には、忘れられない光景がある。
2017年、浦和レッズがアルヒラルを埼玉スタジアムに迎えて10年ぶり2度目のアジア王者を獲得したAFC Champions Leagueの決勝ーー。
当時レディースユースに所属していた高橋は、スタジアムで他の育成選手たちと一緒に試合の行方を見守っていた。そして、後半43分、武藤雄樹のパスに抜け出したラファエル シルバが豪快に右足を振り抜き、文字通りスタジアムが揺れる瞬間を体験した。
「もう、わあってなって、ファン・サポーターのみなさんが飛び跳ねて、ぐわーってなっていたのはやばかったです」
「ハーフタイムの『歌え、浦和を愛するなら〜』のジャンプしているのもやばかったですけど」
そして数は違えど、同じような熱量を昨シーズンの『AFC Women's Club Championship 2023 - Invitational Tournament』決勝でも感じていた。
「レッズレディースのサポーターって本当にWEリーグやアジアの女子サッカーの中で絶対に熱量が一番高いと思っているんです。でも、その中でも去年のアジアの決勝は、正式なものではなかったですけど、本当に応援の声がすごくて、やっぱり浦和レッズってアジアを獲りに行くんだなというのをあらためて感じました」
◆準々決勝への決意◆

だからこそ、この準々決勝は是が非でも勝たなければいけないと感じている。
「優勝を狙っているからこそやっぱり目の前の1つ1つを大切にしなきゃいけないと考えています」
「それこそ私は昨年のグループステージを戦ったベトナムにはコンディションもあって行けなかったので。スコールがあったりとかいろんな過酷な環境でもみんながやっぱり勝って帰ってきてくれたからこそ、この準々決勝があるので、まずはそこに向けて、グループステージに出られなかった思いを全部ぶつけていきたいなと思っています」
高橋はいまのチームへの期待感も口にする。
「試合を通じて非常に良くなっていっていると思います。内容も含め、選手とのコンビネーションとかすごくよくなっているとは思うので、最初はチームとしてなかなかこう得点が奪えないことも多かったけど、それでもやっぱり後ろは失点数が本当に少なくてみんな戦ってくれています。
リーグで勝ちきれない試合もありましたけど、負けずにこうやって来られているというのは本当にみんなの頑張りがつながってきていると思うので、そういうところが皇后杯の優勝にもつながったと思いますし、成長できていると思っています。
練習の中でも求めるものがみんな高くなってきてもいるから」
そして最後に対戦相手である武漢江大についても次のように述べた。
「中国ということで技術の高い選手もいるだろうし、アジアだとやっぱり体格の良い選手がいると思うんですよね。中国ってちょっと違った力強さがあるイメージがあるので。WEリーグでは経験できないような、激しい戦いになるんじゃないかって思っています」
「それと強烈な外国籍の選手もいるかもしれないので、試合に入ってびっくりしないように、チームとして準備をして臨みたいです」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

取材を終えたとき、あらためて高橋はなという人物は、物語のヒーローのような存在なのだと思った。
リーグカップ後の振る舞いやふだんの仲間への接し方、スタッフへの気遣い。このインタビューを通じても、本当に仲間を思い、献身性にあふれる発言を繰り返していた。
話の中で、どんな生き方をしたいか、と聞いたとき、彼女は迷いなく「みんなが幸せになってほしい」と発言している。
そして「他の人が悲しんだり、嫌な思いをしているのがめっちゃ嫌です」とも。
おそらく、彼女は多くの人がこうありたいと思える行動を、ナチュラルに体現しているのだ。
そして、それは両親の影響が大きいという。
具体的な出来事を思い出せるわけではないが、「周りの人が居てくれているから自分がいる。だから周りの人を大切にしないといけない」ということ、そして「礼儀」と「感謝の気持ち」と「思いやり」を絶対に忘れてはいけないということ。
それらを両親から伝えられたことを彼女は強く覚えているそうだ。
だから、プレーできている“いま”を、心の底から当たり前とは思っていない。
そんな彼女が、仲間と共に目指すアジアへの頂。
通過点にするためのその準々決勝で、まずはどんなプレーを見せ、その思いを体現してくれるのか。
ぜひ、熊谷スポーツ文化公園陸上競技場で背番号7のストライカーが魅せる姿を体感してほしい。
彼女の心のこもったプレーを見れば、きっとその背中を後押ししたくなると思う。

(文:URL-OMA/写真:近藤 篤)
ぜひ、ご一読ください。

「まず本当にチームは全員がふだんから頑張っていますし、この試合も頑張っていました。守備陣には今日の試合も含めて毎試合助けられているので、ミスとは思ってほしくないです。私のところでもチャンスがありましたし、決定力をもっと突き詰めていきたいです」
『2024-25 WEリーグ クラシエカップ 準決勝』サンフレッチェ広島レジーナ戦。試合後、高橋はなは取材を受けるミックスゾーンで上記のように述べた。
質問は「自分たちのミスで3失点し敗退になったが?」という内容だったと思う。
この日の試合は明らかなミスからの失点もあり、前半を終えて0-2という苦しい展開だった。
後半、なんとか高橋の2得点で追いついたものの、最後は延長で突き放され、タイトル獲得を目指したカップ戦に敗れていた。
通常こうしたシーンでは、少なくない選手がチームメイトを守る発言やチーム全体の責任を述べる一方で、それは当たり障りなく、波風を立てないために、デフォルトでそう応えるようなケースということも多々ある。
だが、彼女の言葉には真情がこもっていた。
真実性のある声音、質問者をしっかりと見据える強いまなざし。そして、他者ではなく、自身の責任に言及した発言。
「ミスとは思ってほしくないーー」
この選手は本当にチームや仲間を思いやり、行動している。そう感じた瞬間だった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
◆一点の曇りなく歩む道◆

サッカーをはじめたきっかけを、実は本人もあまり覚えていない。
2つ上の兄の影響で始めたことは確かだが、気づいたときにはサッカーが生活の一部になっていた。
小学2年生で地元の女子サッカーチームに入り、その後、現在マンチェスター・シティWFCで活躍する長谷川唯を輩出した戸田市のチームへと移籍する。
中学に上がるタイミングで、浦和レッズの門戸をたたき、レッズレディースの育成に加入。
本人曰く「中学とか高校では学校にちゃんと行かないと、サッカーをプレーさせてもらえないじゃないですか。だから、そのために学校に通っていました(笑)」というほどに、サッカーにのめり込んだ。
誰もが通りそうな「辞めたい」と思う機会も彼女には無縁だった。
「サッカーがあるのが当たり前というか普通すぎて、辞める選択肢がなかったかも。違うことをやりたいとも思わなかったです」
「あとはやっぱり大好きな兄が高校までサッカーをやっていたんですけど、その背中を追いかけていたのと、親も応援してくれていたし、友達とかも学校にもいましたけど、やっぱりレッズの仲間の方が一緒にいる時間が長いし、仲が良かったからみんなに会いたいみたいな感じで過ごしていたと思います」
高橋は一点の曇りもなく、サッカーと共に歩んできた。
◆ストライカーとしての輝き◆

今季、高橋はストライカーとしてのプレーでチームに大きく貢献している。
3月15日に行われた大宮アルディージャVENTUS戦では、相手の状態を見極めたプレスでDFのミスを誘い、ショートカウンターを発動。
奪取したボールを少し運んだ後、伊藤美紀にボールを預け、ふたたびゴール前で受け取ると、トラップから素早く右足を振り抜いたコントロールショットで、ゴールネットを揺らした。
「あのシュートは、その週に練習でやっていた形だったんです。だから練習でやっていた感覚のまま蹴った感じでした」
勝利をたぐり寄せた貴重な先制弾は、彼女の今季公式戦通算得点を二桁に乗せるものだった。
FWとして得点源となり、他チームの警戒具合から見ても、明らかに特別な存在感を発揮しつつあると言える。
だが、高橋はきっぱりと否定する。
「自分自身は、そうは思わないです」
そして続けた。
「みんなのおかげで楽しくやらせてもらっているというのが大前提です。欲を言えば、もっともっと得点しないといけないと思っています」
「私、全部ができるようになりたいんです。全部ができれば一番最強だと思うから。キープもできる、ドリブルもできる、シュートもどこから打っても入るくらいに」
◆高橋が大切にしているもの◆

だが、その前に高橋には大切にしている考え方がある。
「自分自身、まずは個人が頑張んなきゃいけないと思っています。自分の中でやっぱりめっちゃうまい選手になりたいですし、そこは絶対諦めていなくて、これから練習あるのみという感じなんです。技で何か見せられたりとか華麗なプレーをたくさんできる人の方がやっぱり魅力的ではあるかもしれないから」
「でも自分が、じゃあ、今すぐ何ができるかとなったときに、闘うところであったり、最後まで走ることだったりで、少しでも味方が楽になるなら、そこ私が走ります!ってもう手を上げてもいいくらいなんです」
「もう責任ですよね、それは」
「自分が出られていることも当たり前じゃないし、それで悔しい思いをしている選手もいるから。一番悔しいのは結局、試合に出られなかった選手たちだと思うんです。そういう選手たちにも出ている選手は、何かを感じ取ってもらえるぐらいやらなければいけないと思うんですよね、絶対に」
「そうすれば、もしそれで試合に負けたとしても、出ていない選手たちも、頑張らなくちゃって思ってくれると思うんです。そしたら、きっとチームがもっと良くなっていく。
レッズに入って、先輩たちを見て、良い指導者に出会って、そういうのを教えてもらって、ピッチ上だけではないところも含めて、やっぱりそれがこのクラブを背負う責任なんじゃないかと思っていて。だから、そこだけは絶対やりたいといつも思っています」
◆浦和レッズとアジアへの思い◆

仲間やクラブを第一に思う姿勢。
そんな彼女にとって、浦和レッズが大切にしているアジアの大会を獲る意味をどう感じているのだろうか。
「シンプルに言うと、他のチームに獲られたくないです(笑)」
「言葉にするのは難しいんですけど...。他のチームがアジア1ってシンプルにすごく嫌で(苦笑)。浦和レッズがアジア王者は似合いますけど、他のチームはちょっと...と思っていて」
「浦和レッズと言えばアジア。ACLを獲るのは浦和レッズ、というのを小さいころから見てきたから、獲らなければいけないよね、レッズは、と思っています」
高橋には、忘れられない光景がある。
2017年、浦和レッズがアルヒラルを埼玉スタジアムに迎えて10年ぶり2度目のアジア王者を獲得したAFC Champions Leagueの決勝ーー。
当時レディースユースに所属していた高橋は、スタジアムで他の育成選手たちと一緒に試合の行方を見守っていた。そして、後半43分、武藤雄樹のパスに抜け出したラファエル シルバが豪快に右足を振り抜き、文字通りスタジアムが揺れる瞬間を体験した。
「もう、わあってなって、ファン・サポーターのみなさんが飛び跳ねて、ぐわーってなっていたのはやばかったです」
「ハーフタイムの『歌え、浦和を愛するなら〜』のジャンプしているのもやばかったですけど」
そして数は違えど、同じような熱量を昨シーズンの『AFC Women's Club Championship 2023 - Invitational Tournament』決勝でも感じていた。
「レッズレディースのサポーターって本当にWEリーグやアジアの女子サッカーの中で絶対に熱量が一番高いと思っているんです。でも、その中でも去年のアジアの決勝は、正式なものではなかったですけど、本当に応援の声がすごくて、やっぱり浦和レッズってアジアを獲りに行くんだなというのをあらためて感じました」
◆準々決勝への決意◆

だからこそ、この準々決勝は是が非でも勝たなければいけないと感じている。
「優勝を狙っているからこそやっぱり目の前の1つ1つを大切にしなきゃいけないと考えています」
「それこそ私は昨年のグループステージを戦ったベトナムにはコンディションもあって行けなかったので。スコールがあったりとかいろんな過酷な環境でもみんながやっぱり勝って帰ってきてくれたからこそ、この準々決勝があるので、まずはそこに向けて、グループステージに出られなかった思いを全部ぶつけていきたいなと思っています」
高橋はいまのチームへの期待感も口にする。
「試合を通じて非常に良くなっていっていると思います。内容も含め、選手とのコンビネーションとかすごくよくなっているとは思うので、最初はチームとしてなかなかこう得点が奪えないことも多かったけど、それでもやっぱり後ろは失点数が本当に少なくてみんな戦ってくれています。
リーグで勝ちきれない試合もありましたけど、負けずにこうやって来られているというのは本当にみんなの頑張りがつながってきていると思うので、そういうところが皇后杯の優勝にもつながったと思いますし、成長できていると思っています。
練習の中でも求めるものがみんな高くなってきてもいるから」
そして最後に対戦相手である武漢江大についても次のように述べた。
「中国ということで技術の高い選手もいるだろうし、アジアだとやっぱり体格の良い選手がいると思うんですよね。中国ってちょっと違った力強さがあるイメージがあるので。WEリーグでは経験できないような、激しい戦いになるんじゃないかって思っています」
「それと強烈な外国籍の選手もいるかもしれないので、試合に入ってびっくりしないように、チームとして準備をして臨みたいです」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

取材を終えたとき、あらためて高橋はなという人物は、物語のヒーローのような存在なのだと思った。
リーグカップ後の振る舞いやふだんの仲間への接し方、スタッフへの気遣い。このインタビューを通じても、本当に仲間を思い、献身性にあふれる発言を繰り返していた。
話の中で、どんな生き方をしたいか、と聞いたとき、彼女は迷いなく「みんなが幸せになってほしい」と発言している。
そして「他の人が悲しんだり、嫌な思いをしているのがめっちゃ嫌です」とも。
おそらく、彼女は多くの人がこうありたいと思える行動を、ナチュラルに体現しているのだ。
そして、それは両親の影響が大きいという。
具体的な出来事を思い出せるわけではないが、「周りの人が居てくれているから自分がいる。だから周りの人を大切にしないといけない」ということ、そして「礼儀」と「感謝の気持ち」と「思いやり」を絶対に忘れてはいけないということ。
それらを両親から伝えられたことを彼女は強く覚えているそうだ。
だから、プレーできている“いま”を、心の底から当たり前とは思っていない。
そんな彼女が、仲間と共に目指すアジアへの頂。
通過点にするためのその準々決勝で、まずはどんなプレーを見せ、その思いを体現してくれるのか。
ぜひ、熊谷スポーツ文化公園陸上競技場で背番号7のストライカーが魅せる姿を体感してほしい。
彼女の心のこもったプレーを見れば、きっとその背中を後押ししたくなると思う。

(文:URL-OMA/写真:近藤 篤)