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24.10.06

不定期連載『Beyond』vol.2 柴田華絵が語るAWCL初挑戦への思いートップリーグ14シーズン目を戦う矜持

選手の思いや試合に臨む姿を伝える不定期連載『Beyond』。
第2回は、ベトナムでのAFC Women's Champions League グループステージに向かう柴田華絵選手のインタビュー記事です。ぜひご一読ください。


(写真:ATSUSHI KONDO)

柴田華絵は練習から戻り、すぐにホテルでシャワーを浴びる。その後、アイスバス(氷入りの水風呂)で短く疲労回復に向けたケアをすると、移動着に着替え、手早く髪を整えた。

AFC Women's Champions League(AWCL)の初戦前日。AFCが主催する公式会見に出るためだった。

その30分後ーー。

彼女は、ベトナムでの宿泊先ホテルから約15分ほどの別のホテルで、次のように多くの現地メディアの前で話した。

「みなさん、こんにちは。第1回大会に出られることをすごく楽しみにしてきました。ふだん対戦できない海外のチームと対戦できるのは本当によい経験になりますし、ここベトナムでプレーできることも楽しみに思っています。それを試合でぶつけられるように戦っていきます」

緊張している様子もなく、いつもどおり自然体のまま。それでも熱を帯びたメッセージを彼女はしっかりと伝えた。

(写真:URL:OM/10月5日に行われたAFCの前日公式会見)



日本女子サッカーのトップリーグで活躍を続けてきて14シーズン目。選手として円熟味を増す彼女は今大会に、どんな気持ちで臨もうとしているのだろうか。

初戦を迎える直前、話を聞いた。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



◆試合の入りから気を引き締める◆


ーーまずは海外遠征まわりについて聞かせてください。長時間の移動は平気な方ですか。

「うーん、平気は平気だけど、でも好きじゃないです。まず飛行機に乗りたくないし、長時間移動するのが嫌です」

「まあでも、好きか嫌いかと言ったら、嫌いだけど、やること自体はやりますよ、という感じです(笑)」


ーー練習場のグラウンドとかはいかがでしょう。かなりぬかるんでいて悪い状況のようでした。

「スパイクが汚れるから嫌です(笑)。まあ、まじめに言うと、疲れますね。下がぬかるんでいて踏ん張れないんです。だから、(いつもの練習場より)疲れる」

(写真:URL:OM/ベトナムでの練習風景)

ーーそうした経験を含め、女子サッカークラブではあまりなかった海外での公式戦がクラブ単位であることはどうですか。

「すごくよい経験ですよね、やっぱり。本当にそう思います」


ーー大会は中二日、連戦となる中で、準備等含めて大事にしたいところはどんなところですか。

「普段から意識はしていますけど、特に連戦なので、やっぱりコンディションの部分ですかね。試合前後のよい準備をするとかもそうですし、その試合後のケア、自分たちでできることはしっかりやるとか。本当にこの短期決戦のようなときには特に意識をしています」


ーー今回戦う3チームの印象はいかがですか。

「インド、チャイニーズ・タイペイ、ベトナムというところですけど、どのチームも外国籍の選手が何人かいると、スカウティングがありました。普段プレーしたことがない選手、知らない相手とやるので、何をしてくるかわからないというのはあります。本当にゲームの入りから気を引き締めていかないといけないと思っています。3試合ともそれは本当に思っています」


ーーチームや個人で注目してほしいところは?

「やっぱり個人というよりチームですね。この環境でいつもとは違う相手と戦うというのは、チーム自体、一戦一戦成長できると思いますし、どう戦うか、今のチームは誰が出るかもわからないので、そこも見ていただきたいです。その中でゲームの中でも成長できると思っているので、そこをやっていきたいと考えています」




◆状況によってより気持ちが上がる◆


ーー去年はAFC Women's Club Championship 2023 - Invitational Tournament(AWCCIT)の決勝を日本で開催し、優勝しました。

「なんだろう...。すごく雰囲気を作ってくれるじゃないですか。ファン・サポーターもスタッフのみなさんも。そういうのはあるんですよね。浦和駒場スタジアムでやってくれたのが一番大きかったと思いますし」

「もちろん、相手の韓国のチームが強かったというのもありましたし、雰囲気って大事だなと思いますね」

「やっぱりシチュエーションによって、より(気持ちが)上がるんですよね」


ーーレッズにいると、やっぱりアジアというのは特別な大会になりますよね。

「そうですね。やっぱりリーグとは違います」

「ファン・サポーターの人たちに対しても、もう単純にあーすごいなって思います。レディースの試合でもこんな雰囲気を作ってくれるんだなと。ここまで持って来てくれるんだな、すごいなって」


ーー昨季のアジアの大会を戦い抜き、優勝した経験は自信になっていますか。

「昨季同じような相手と戦ってきているというのはすごく大きいかなと思っています。そこはすごく自信になっていると思います」



◆海外チームとの対戦は発見がある◆


ーー海外の選手たちとやるのは楽しかったりしますか。

「確かに楽しい...、いや、楽しいかどうかは別かもですね。発見がありますよね、やっぱり。へえ、こんなタイミングがあるんだとか。ほんとにタイミングが日本人選手と違うんですよ。海外のチームとやると」

「もちろん、うまい下手はあるんですけど、タイミングが違う」


ーー具体的にはどういう感じですか。

「相手がボールを持っているときのタイミングが違うんです。パスのタイミングとかも。足を振るじゃないですか、パスするときって。それこそ昨季の決勝のときの韓国の選手。ドリブルしてパスを出しますよね。そのときのパスのタイミング、球離れのタイミングが違うんです。そのタイミングでパスが出るの?みたいな。運びながら、いつの間にか蹴ってるみたいな」

「読みづらいじゃないですけど、最初はタイミングがわからなかったんです。予測するときに。まあ、お互いそういうところがあるんだと思いますけど」



◆やるとやっぱり楽しいんです◆

ーー10年以上もトップリーグで活躍を続けているというのはすごいことだと思うんですが、柴田華絵というサッカー選手としてサッカーに向き合う姿勢というところではどうでしょう?

「なんだろうなあ。私、練習とかは別に好きじゃないんですよね。別にないならないでいいやって思うこともあるし。でもやったらやっぱり楽しいんですよね」

「もちろん、やったらやったで、身体もメンタルも疲れるじゃないですか。だから別にしなくても生きていけるんだろうなとかたまに思うんですけど、でもやってたら楽しいんですよね」

「試合とか練習の局面とか、駆け引きみたいなところをやっているのが楽しいんです」

「まあでも別に練習がないならないでラッキーってなるタイプです(笑)」



◆勝ってほしいと思っていると思う◆


ーーあらためてアジアで戦うモチベーションはいかがですか。

「さきほども言いましたけど、リーグでは知っている相手と対戦するので、いつもどおりのモチベーションで戦えるんですけど、やっぱり知らない相手、知らない選手と戦うのは、ふだんとは違いますし、本当にすごくよい経験ができると思っています。だからといってめちゃくちゃモチベーションを高めて戦うと言うわけではないんですが、いつもどおり、本当に勝ちに行く。私たちのサッカーをして勝ちに行く。その中でも相手をリスペクトして戦うということをやりたいと思います」

「それとこの大会に出られることがまず昨季リーグ優勝したからというのもあると思うので、日本で出られるのは私たちだけですから、そういう部分では、自分たちの結果でこういう場に立てているというのはすごくモチベーションになると思います」

ーーAWCLは絶対に獲らないといけない、という気持ちはありますか。

「あります。昨季のアジアの大会に勝っているし。やるからには獲らないといけないと思います。ファン・サポーターのみなさんはみんな、アジアでは負けてほしくない、いや負けてほしくないというか、レッズに勝ってほしいと思っていると思いますしね」

ーーファン・サポーターの期待に応えるためというのは大きいですか。

「もちろん。それはリーグでもそうです。あとは、自分がやるからにはやっぱり勝ちたい」


ーー最後に女子サッカーを盛り上げるという意味では、今大会はどのような位置付けと考えていますか。

「女子サッカーのACLであるAWCLをもっと知ってもらえるように。そのためにも私たちがグループステージを勝ち上がって、準々決勝、準決勝、決勝という舞台まで行けたらと思っています。その上で、もし日本で決勝をしていただけて、そこで勝つということになれば、三菱重工浦和レッズレディースの名前もそうですし、女子サッカーというのをもっと世間の方に知っていただけるチャンスになると思うので、そのためにも第一回大会である今回を優勝して次につなげたいです」



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(写真:ATSUSHI KONDO)

時折冗談のような言葉も挟みながら、柴田は真摯に応えてくれた。

サッカーや練習に対し、ないならないでいいって思うこともあるーー。

おそらくそれは飾らない彼女の本心だろう。

2012年。レッズレディースに加入し、2年目を迎えていた彼女はオフィシャルのインタビューでも次のように話していた。

「高校までで真剣なサッカーはやめようと思っていました。サッカーが嫌になったとかではないんですけど、自分から練習に参加して、なでしこリーグ(当時の国内トップリーグ)に挑戦しようとは思わなかったんです。声をかけていただけなければ、そこまでの選手ではないとも思っていたし」

柴田は高校卒業時からその姿勢を変えていないのだ。

そして、そんな彼女が、それでもなお14年もの間、国内トップリーグでサッカーを続け、キャプテンという重責を担っている事実。それこそが柴田華絵という選手が持つ、サッカーへの強い情熱を示していると思う。

背番号18のミッドフィルダーは、第一回大会となるアジアでの挑戦で、どんなプレーを見せ、チームを勝利に導くのか。淡々と、でも熱い、彼女の戦う姿を見届けてほしい。

(URL:OM)

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