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24.08.30

開幕前会見後の囲み取材=工藤輝央スポーツダイレクター

2024-25 SOMPO WEリーグ 開幕前 三菱重工浦和レッズレディース 会見のあと、工藤輝央スポーツダイレクターが報道陣からの囲み取材に応じました。



ーーさきほど監督や選手の会見でも現状戦力で戦うことへの前向きな発言がありました。強化責任者としては、どのように考えていますか。


工藤SD
「シーズンがスタートした際の囲み取材でもお伝えしたんですが、負傷している選手の復帰という部分が補強と考えたのと、監督からも昨シーズンが終わる前から話をしていく中で、現有戦力+若手という部分もあったので、この体制にしています。

今回ユース選手の昇格内定を発表しましたが、もちろん今のフェーズ的にはトップチームの選手と力の差はあるとは思います。

ただ、今の柴田選手や猶本選手の1年目もそうした時期があったように、今の若い選手たちが育って、チームの軸に据えていく、そう考える時期なんじゃないかと思っています。

決して戦力的にすごく足らないと思っていませんし、水谷選手が負傷してしまったというのはあるんですが、ベースは大きく昨季と変わってないので、不安は特にありません。

ーー昨日の昇格選手の中では、昇格時に16歳になる選手がいました。WEリーグに移行してからは、チームとしても最年少になりますか。

工藤SD
「WEリーグになってからは初めてだと思います。昔を含めれば、池田選手が中学3年生のときになでしこリーグで試合に出ているので、そうした事例もありました。プロ化になってからは初だと思います」


ーーそうした連携が育成の積み上げになっていると思うんですが、今後についてはどう考えていますか。

工藤SD
「レディースでコーチをやっていたときからも変わってきています。浦和レッズでもいろいろなカテゴリーをやらせてもらいましたが、育成とレディースというところで言うと、レッズレディースの環境は非常によいものがあるんですね。

というのもレッズランドにグラウンドもクラブハウスもあって、一つの場所でできている。

みなさん、ご存知だと思いますが、男子の方は与野八王子で平日はトレーニングをして、週末はレッズランドで活動をするという状況です。そういう意味では、レディースは拠点があってよい環境なんですよ。

レディース育成も平日は夜に1面ずつ、人工芝のグラウンドをジュニアユース、ユースで使えるので、非常に恵まれた環境にあるんです。

いま、Jクラブも増えて、J1、J2、J3とある中で、関東で言うと、どこからでもJクラブに通えます。そういうことを考えると、クラブが増えたとはいえ、男子の育成の方よりもまだレディース育成には選手が集まりやすいという現状もあるので、この育成の強みを活かすようなサイクルをつくるのはすごく大切だと考えています。それをどう発展させていくかという視点でいまは考えています」


ーー3分の2くらいが育成出身選手ですばらしいと思う半面、外からの補強による刺激という部分もチームを成長させる要素だと思います。そのあたりはどう考えていますか。

工藤SD
「おっしゃるとおり外からの補強というのももちろんあると思いますが、それは選手だけではなくて、コーチングスタッフやそれを取り巻くチームスタッフなどの環境、いろいろな意味でチーム力をあげるという補強の仕方があると思います。

たとえば、寺口コーチに来てもらったのもその補強の一つで、U-17、U-20、なでしこジャパンとすべてのカテゴリーの代表を経験しているし、AWCLを見据えたときに代表での経験で彼はアジアの戦い方を知っているんですね。その経験は強みだと思います。またオリンピックを経験しているコーチですから、そういうものをチームにも持ち込んでもらうというのも一つの補強だと思っています。

なので、トータル的なところでいろいろな刺激を与えられるんじゃないかと考えています」


ーークラブワールドカップの女子版のような話もでてきた中で、外国籍の選手を加入させる選択肢というのはあるのでしょうか。

工藤SD
「マーケットが広がっていく中で、将来的には十分に考えられることだと思います。ただ、 今の私たちが考えているフェーズで言うと、外国籍の選手を獲るというよりは、日本人のチームとして構成していくことをまず考えているのと、 あくまでも育成出身者をベースにして、そこからどう肉付けしていくかという視点で考えています」


ーー育成の強みというところで言うと、以前工藤さんがやられていたときと、WEリーグができてクラブが増えてきたところで変化はありますか。

工藤SD
「まず住所的には神奈川の中でもさいたまから遠い地域に済む選手はだいぶいなくなりましたよね。昔だと相模原から通ってきたりとか、いろいろなパターンがありました。
 もちろん、日テレ・東京ヴェルディメニーナを落ちて、レッズレディースというパターンもありましたし、レッズのことが好きで来てくれた選手もいました。
 ただ地域性という面では、ノジマができて、相模原から来ている選手はいまはいないと思いますし、千葉の方面も減ったと思います。
 ですから、そういう面では、さいたまとか浦和、いまですと角田選手がいますが、やっぱり地元を中心にどう広げていくかというのはあると思います」

ーーこれだけ選手がヨーロッパでプレーするようになっていく中で、育てつつ強化していくという中では、男子も難しい時期にあると思いますが、そういう視点ではいかがですか。

工藤SD
「そうですね。そういった意味では、やっぱり男子の方も同じだと思います。本当におっしゃった通りで、若い選手は海外に行きたい。で、日本のマーケットは海外からしたらちょっと選手に声をかけやすいというようなマーケットという面では男女一緒だと思います。

それに対して本当にどうやって止めるかというと、1つは契約で縛る、言い方は悪いかもしれませんが、そういう形はあると思います。でも、今のマーケットの中でそれができるかというと、男子よりはそうしたことがやりづらいですよね。

ではどうするかというと、やっぱりリーグ自体に魅力を感じてもらって残ってもらうという仕組みというのを、チームだけではなく、リーグ全体で考えないといけないと思います。

昔、それこそ熊谷紗希選手がレッズレディースにいて、海外移籍するかもしれないという中で、1回踏みとどまることを考えてくれたことがあったんですが、それはどういうことかというと、そのころって、なでしこジャパンがワールドカップで優勝した時期に近かったんですね。

つまり世界的に競技レベルで劣っているわけではない、ということなんです。

ただ、マーケットを考えると、ヨーロッパと比べて少し差が出てきているのかなとは思っています。

ヨーロッパは、もう移籍金を払って女子選手を獲得するということになっていて、移籍金もだんだん上がってきています。私の感覚でもそうですし、仲介人とのコミュニケーションでもそういう部分を感じていて、彼らも『ここ3年から5年で急激に変わってきている』と話していました。

移籍金も高騰して、移籍金を払って獲得するのが当たり前になっている、イングランド中心ですが、そうなっている話を聞くと、日本もそこへの対策など打ち出していかないといけないと考えています」


ーーそうなると工藤SDがイメージしているのはいまのように育成選手を育てていくということですか。

「そうですね。その方向になると思います。

 入ってきた選手に、簡単にクラブ愛を持って欲しい、と言ったとして、簡単に持てないですよね。やっぱり育った環境の中で、クラブに対する思いが芽生えてくるものだと考えています。

清家選手がそうですが、中学1年から加入して、このクラブで育ってこのクラブが大好きで、海外挑戦に行くけど、最後は帰ってきたい、と言っている。そういう選手を育成組織から育てていくというのが僕は理想かなと考えています。
そういった選手を輩出して、世界で活躍してもらい、タイミングがあれば戻ってきてもらう。そういうサイクルになるとすごくよいんじゃないかと考えています」


ーーレッズレディースとしては海外移籍はどのくらい推奨しますか。たとえば別のチームでは、どんどん出て行くことを推奨しているチームがあります。

工藤SD
「誰でもどうぞ行ってください、ということでは決してなくて、こちらも興行ですし、プロチームとしてやってるので、 やっぱりクラブに貢献してもらって、その後に出ていきたいというタイミング、もしくは選手が望んでいるものと来たオファーが一致しているとか、そういう状況であればどんどん応援したいと思いますけど、我々から見て少し差があるようなもの、例えば、どこでもいいから海外に行きたいとなると話も違うと思いますし、本当に選手自身が望んでいる将来と近いオファーで、クラブも納得するようなもの、3者間が納得するのであれば応援したいと思います」


ーークラブのブランドもあるが、選手の将来についても考えると?

工藤SD
「そうですね。やっぱりサッカー選手って選手でいる時間が短いと思うんです。
で、相当な努力をしてみんな残って、いまの地位を築いているので、そういった中でチャレンジする権利はあると思いますし、それを応援したいとは思っています」


ーーレディーストップとレディース育成、その一貫性の重要さという部分ではどのように考えていますか。

工藤SD
「何をもって一貫性とするかというと、もしかしたら人によって違うかもしれないですけど、指導者が数年で変わるケースもあると思うんですけど、大きく変わらないところは、やっぱり先ほど監督も言っていましたが、ひた向きにやるとか一生懸命やるとかで、指導者が変わっても、言ってることってそんな変わってないと思うんですよね。

で、そういった中で、各指導者の色で戦術的なところはちょっとずつ変わってきますが、そういったもの、空気感、それと浦和駒場の空気感というのは大切で、ご存じのようにレッズレディースの試合運営をジュニスユース、ユースの育成選手が手伝っていますよね。なので、小さいときからそういう空気に触れて育つことによって必然的に身につくものがあると考えています。

例えば1つの例ですけど、この間、とある大学の選手、うちの育成出身の選手が練習参加してましたけど、違和感なく溶け込めていました。やっぱりこういうのも1つの育成の良さだと思いますし、大事なところだと考えています。3日間練習に参加するうちにうちの出身ではなかった選手はようやく3日目くらいに慣れるんですよね。でも育成出身選手は、すでに初日から楽しく、一緒にみんなとできる。そうした空気を知っているというのも、すごく良さになるんじゃないかと考えています。
そういう教えるものではない部分を共有しているのは大切ですし、大事にしないといけない、そうした部分は重要だと僕は思っています」



ーー短期、中期、長期の方向性はどう考えていますか。

工藤SD
「もちろん、短期的には今季は大きな大会もありますから、結果という部分、目に見える結果、順位、ゴール数などの部分はこだわらなければいけないと考えています。

中期的なところでいうと、いまはいろいろなもの、置かれている状況やさきほど事業面でも言っていましたが、観客数の伸び率の部分もそうかもしれませんし、いろいろな見直しが入る時期だと考えています。

Jリーグが始まったときに、僕は中学生でしたが、3、4年目で観客数が落ちた時期があったと思います。結構大変な時期があったと思うんですが、そこで当時携わったいろいろな方が一生懸命やられていまのJリーグがあって、これだけチーム数が増えてきていると思うんです。

そういう意味では、中期的なところでいうと、この5年くらいで見直して変えていかなければいけないというのと、各WEクラブがクラブとしてこれから色が出てくるのかなと思っています。

みんなが優勝を目指すわけじゃないし、もっと育成に特化するクラブが出てくるかもしれないですし、 例えば大学生を獲得し、そこから他のクラブに流していくようなクラブとか、いろんなカラーが出てくるんじゃないかなと考えています。

で、長期的なことで言うと、私がどこまで携わっているかは別として、人に左右されない組織にしなきゃいけないと考えています。選手が変わってもスタッフが変わっても、目指すべきものは変わらない。浦和らしさというところは男子も女子も関係ないと思うので、そういうものというのは長期的に続けていくような、それも組織づくり、仕組み作りですね」


ーーいま、ヨーロッパの男子の強豪国がそのノウハウを使って女子の世界でも結果を出し始めていると思います。そこに日本が乗り遅れていかないためにはリーグにもどういうところで頑張ってほしいと考えていますか。

「そういう部分で言うと、先日、僕もレディースジュニアユースに帯同して、アメリカ遠征に行かせていただきました。NIKE PREMIER CUPというものに出場して、結果的に4位だったんですが、そこにボルフスブルクが来ていて、女子のアカデミーダイレクターがいたんですね。それが安藤選手がドイツにいたときの監督とかをされていた方で、そうした縁もあって、いろいろな話をさせていただきました。

そのときにドイツがいま危険な状況だということをその方は言っていました。ドイツの女子サッカーはこの10数年間、変化がないと。乗り遅れているというんですね。そういった話からいろんな刺激を受けたんですが、少し難しい時期があったアメリカ、アメリカで言うと、この間、アメリカ代表に携わっている、日本で言うナショナルトレーニングセンターのような指導者養成のトップの方と話す機会があったんですが、アメリカはトレセンをすごく充実させて、育成年代からの発掘に努めて強いアメリカを取り戻そうとしているということでした。かたやドイツは何をやっているかというと、昔からのやり方が変わっていなくて、いま模索している段階だと言っていました。スペインとなぜここまで差ができたのか、とか。

そうした話から、自分たちに置き換えて考えたときに、何ができるかなと考えていて、みんなとも話してたんですけど、本当おっしゃっているとおり我々だけではできないんですよね。

じゃあどういうことで我々として引っ張るのかと言ったら、やっぱりAWCLという大きな大会で、それは世界に示すものですし、大きなチャレンジができるし、それは自分たちにしかできない、三菱重工浦和レッズレディースだからできることがあるんじゃないかということがあるので、アジアの戦いで、それに臨むにあたり、いろいろな姿勢を見せていかないといけないと考えています。

なので答えは何かというと、アジアでの舞台で違いを出せるもの、アジアの舞台に臨むにあたって我々が準備することで、少しずつ見せていきたいなと考えています」


ーーそうした姿勢を見せることで、リーグや国内にも影響を与えたいと?


工藤SD
「はい。そういう感じです」



ーーさきほど人が変わっても変わらないものを作るということをおっしゃっていましたが、それは明文化するような予定がありますか。

工藤SD
「そうですね。そうしたものを少しずつ言葉にして作っているところです」


ーーケガについてうかがいたいんですが、大きなケガが続いているところで、予防は難しい部分もあると思いますが、どのような対策を考えていますか。

工藤SD
「実際に予防自体はしっかりと行っていますし、先日発表のあった水谷選手は、そうした部分の意識が非常に高い選手の一人でもあるんですね。トレーニング前に入念に準備をしている選手でもこういうことが起きるので、やはりそのあたりの予防をしていても難しいというのをあらためて再認識したところでした。

 実際に女性は男性に比べて3倍くらい多いとも言われています。いろいろな理由があって、研究でもいろいろなものが出ているんですが、たとえば月経との関係とか、そうしたものでも変わる、というデータがあるので、そうしたものを通じてさらなる予防につなげるというところにトライして行っているというところです。

ただ、そうしたデータもまだまだそろっていないのと、育成年代でもいまトライをし始めているところというのはあります。

また前十字靱帯の負傷というのが、レッズレディースが特別多いということではないと思っていますが、ここ数年で毎年のように出てしまっているというのは、何かしらの原因はあると考えています。そこに対して、これですというのはいまはまだ言えませんが、他クラブとの環境の違いなども含めて、ドクターとも意見交換しているところです」


ーーレディースの育成組織が求めている選手像のようなものはありますか。

工藤SD
「僕は金太郎飴のように選手を育成するのは良くないと思っていて、言葉にするのは難しいんですが、よく言っていたのはパンチのある選手です。とことんテクニックがあるかもしれないし、清家選手のように力強さがあるのかもしれない、遠藤選手のように何回もアップダウンを繰り返せる選手かもしれないですし、何かが飛び抜けているような選手という感じで考えています」


ーー選手をみるときには、どういうところを見ているんですか。

工藤SD
「この間、セレクションを見ましたが、やっぱり難しいですね、選手を見極めるセレクションというのは。男子のセレクションでもやっぱり難しいんです。実際に短期間で見極めるというのは難しいです。

ただ、本当に目立つ選手は誰が見ても票が入ります。

それは何かが輝いているんです。この間、僕が見たときに思ったのは、一人はめちゃくちゃちっちゃくて足も遅いんですけど、身体の成長がまだまだで、でも頭の回転がめちゃくちゃ速くて、判断がいいという選手でした。その選手が輝いて見えたのと、もう一人はフィットネス的に輝いていました。またもう一人はキックがめちゃくちゃうまかったです。その3人は印象に残りました」



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