2009. 3. 3 Vol.61 |
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大住氏:サッカーの話に戻しますが、ファン・サポーターの方からeメールでいくつかの質問が来ています。それを3つばかり質問します。 まず新しい戦術をやっているということですが、選手たちがどのくらいそれを理解しているのか、どのような方法で判断するのでしょうか?という質問です。 フィンケ監督:とても大切なのは、選手たちが自らこの新しいサッカースタイルを身につけるために取り組んでくれたことです。もちろん私のやり方というものがあるわけですが、新しい監督が来ると、選手たちはまずこの監督は何をするのか、まず様子を見ることが多いわけです。しかし今回のことに関して言えば、チームに所属している全選手が、どうしたら今までと違ったサッカーを作っていけるか、この機会をいかに有効的に使うことによってとてもいいサッカーを築き上げることができるかということにみんなが取り組んできていると思います。 そして実際に日本人のコーチングスタッフ、そしてドイツのコーチングスタッフがとてもいい形で一つのチームになって動いているわけですし、このような形で環境が整ってくると、選手たちも「ここまで整っているなら、しっかりとやらなくちゃいけない」と自ら感じることができるんじゃないかと思います。全選手、全コーチングスタッフが同じ方向を向いて一生懸命仕事をしているわけですし、だんだんとトレーニングマッチでもいいパフォーマンスを見ることができるようになっていると思います。 皆さんもご存じの通り、新しいシステム、例えば今回の4-4-2というシステムに取り組むということについては、今日明日でできることではありません。それだけ、長い目でこのチームは取り組んでいって、毎日努力をすることによってしっかりとした結果を残せるようにトレーニングに励んでいくことが大切だと思います。 大住氏:2つ目の質問です。若い選手たちの試合出場機会が非常に少ないというのが日本のJリーグでも大きな問題になっていますが、この辺をどのように変えていこうとお考えでしょうか? フィンケ監督:私がこのクラブの監督としてサインをする前に、何度も何度も聞いたことがあります。それがこのサテライトの件です。若い選手たちに試合出場の経験を積ませることによって彼らの実力を伸ばすということができるわけです。 しかし、現在の状況だと残念ながらサテライトの試合というのは非常に少ない状況ですので、私からクラブの方にお願いしたことは、今年も行なわれるサテライトリーグに、追加してあと20試合できるようにお願いしました。なぜならば、これだけの試合数がないと若手の選手たちを伸ばすことができないからです。ご存じのとおりこのチームにはたくさんの選手たちが所属しています。そして私はこのクラブの監督としてサインをする前に気付いたことなのですが、非常に多くの若手選手がそろっている、しかし、さまざまな理由からこの若手選手たちは試合に出ることができないでいます。 ですので、公式戦という形での経験を積むことができていなかったわけです。これは非常にもったいないことです。それで、私ははっきりとクラブの方に「サテライトリーグ+20試合」ということをはっきりと出しました。クラブの方も一生懸命この20試合を手配するように動いてくれているはずです。そしてある意味、私は非常に難しい人間だと思っています。そう簡単にあきらめることはありません。どんどん毎回クラブの方にも確認をして、20試合手配ができているかということを今後も何度も突っついていきたいと思います。 皆さんもご存じのとおり私たちのチームには、31人の選手が所属しています。そしてそのうち16人が23歳以下です。そしてもちろんこの16人のうち3〜5人は定期的にトップチームの試合に出ることになるでしょう。もちろん彼らのこれからの努力にもよりますし、トレーニングでのパフォーマンスが最も大切なことです。しかし、彼らの能力というものを考えれば十分可能性があることです。そしてそれ以外でもたくさんの若手選手たちがいるわけです。彼らの能力を伸ばすためにはどうしても彼らが試合に出場できる機会が大切になってくるわけです。 ですから私としてはこれだけたくさんのサテライトの、今までサテライトと呼ばれてきましたが、これらの選手たちの試合を組んでくれるようにお願いをしました。ですので、この質問をしてくださったファン・サポーターの方は、このクラブの現状をよく理解した素晴らしい方だと思います。 大住氏:レッズのファン・サポーターはサテライトの試合にも、何万人ぐらいですか?見に来られることで有名なので、行かなければいけない試合が、今年はサテライトリーグ+20試合ということになりますので、皆さん手帳にしっかり書いておいてください(笑)。 では3つ目の質問にいきたいと思います。Jリーグは過密日程になることが多いですが、そういう中でローテーションというか、ヨーロッパでよくやられているようなことをやられるつもりはあるでしょうか? フィンケ監督:私がまず言えることは、この「ローテーション」という言葉をあまり好んでいないということです。サッカーではどうしてもグラウンドでのパフォーマンスによって選手が選ばれるということが常識だと思います。ローテーションという言葉を使ってしまいますと、まるで一つの順番があるような形で、順番を待っていればだんだんといつか自分の番になって試合に出られるだろうという勘違いが起きてしまいます。 しかし大切なのは、毎日のトレーニングで彼らがどういうプレーを見せているかです。そして忘れてはならないのは、どの選手も、どのような選手であっても年間通して素晴らしいコンディションであるということはありえないということです。生理学的に見ても、必ず年間を通して一度はコンディションが落ちる時期が出てくるわけです。そのときに、この選手がいくら主力の選手であろうと、コンディションが悪いためにベンチに座ったりすることは十分ありえるわけです。 私の考えとしましては、定期的にさまざまな選手が入れ代わっていくことでしょう。何度も何度も選手がベンチに座ったり、または試合に出たり、いろいろ変わっていくことはあると思います。ただ、これは前もって決められた一つのローテーションで回っているわけではなくて、チームの状況、それから選手の状況、そういうことも考えての判断だと私は思います。 そして忘れてはならないことは、記者会見でも実際にお話をしましたけれど、ピッチに立つ11人というのはこのクラブに所属する最も優れた11人ではないということです。いかにチームに貢献することができるか、そして一つのチームとして機能することができる11人が必ずピッチに立つことになると思います。そして皆さんもご存じの通り、サッカー、特にプロサッカーというのはどんどんメディアの注目を受けるようになりまして、世界的に見渡しましても非常に大きな形で報道されるようになりました。そしてどうしてもそのような形で報道されますと、チーム全体が大きく取り扱われるのではなくて、たいてい特定の限られた数人の選手が毎回毎回メディアに登場することになります。実際に私はそれはよくない傾向だと思っています。そして残念ながらこの数人の選手が、メディアの中で特別扱いを受けることによって彼らが勘違いすることもありますし、実際に彼らが見せているパフォーマンスと、報道されている事実とはまったく違うということもよくありえるわけです。 プロ契約をしていても、サッカーというものがチームの競技であることを忘れてはならないと思います。もちろん、素晴らしい個性を持った選手というのは今後やはり伸ばしていかなくてはいけないと思いますし、そのような選手たちも一つのチームとして必要だと思います。ただし、それらの選手たちの個性がすべてではありません。彼らは必ず自らの実力と特長をチームのために生かさなくてはいけません。そして実際に一部の報道関係の方は必ず数人の特定の選手と非常に深い関係を築こうとします。そしてその選手のキャンペーン的な形で、何度もメディアに出すことによって、いかにもスターであるような形で書くことが非常によくあるわけです。しかし、このような現状はもちろん私たちは受け入れなくてはいけないのですが、このような書き方が実際に選手たちにとって非常に大きな負担になることを理解していただきたいです。 もちろん、私たちにとっても監督としてチームを率いる上で、数人の選手が特別扱いをされたり、あるいは大々的に取り上げられたりするのは非常にやりづらいものであるのは確かです。私たち監督だけではなくて、選手たちにとってもそう簡単ではないこともみんなが理解しなくてはいけません。そして実際にさまざまなチームでよく起こりうることなのですが、数人の選手が一部のメディア関係者と結びついて、監督に対してのアンチ・キャンペーンのようなものを展開して、シーズンが始まって短い時間の間に監督がクビになったりすることがあります。このような現実があることは、もちろん受け入れなくてはいけないのですが、やはり忘れないでほしいのはサッカーというのはチームの競技であるということです。数人の特定の選手を大きく取り上げて、その報道によって一部の方々、もしくはファン・サポーターが間違った情報を得るということは非常に残念なことだと思います。できる限りそのようなことが起きないように努力はしたいものです。 ですから、数年間あるいは数ヵ月間メディアに煽られていた選手が、突然コンディションが悪いということでベンチに下がることも起きえるかもしれません。それは彼ら選手にとっても受け入れ難い状況が起きるかもしれませんし、残念ながら、それがネタとなって大きく報道されることも今後あるでしょう。しかし大切なのは、私たちが一つのチームとして機能することです。もちろん、私がいつも選手たちに話していることがあります。サッカーというのはチームの競技である、そしてみんなで同じ方向を向かなければいけないということです。 例え話ですが、私たちがとても大きな交差点にいるとします。そしてその中に15人の選手がいます。そしてその15人の選手がみんな手を上げて「私は非常に優れた選手です。どの道に進むかはよく分かっています」と言うかもしれません。もちろん彼らはそれを言う権利を持っています。なぜかというとみんな優れた選手かもしれないからです。何人かの選手が右に行って、あるいは左に行って、後ろに行って、前に行ってと、そんな状態では何のいい結果も出すことはできません。大切なのは監督と、それから選手たちが話し合って、同じ方向を向いて、同じ道を進むことです。この道は場合によっては、広くなったり、逆に狭くなったりするかもしれません。しかし、同じ方向を向いて、同じ方向をみんなで進んでいくというのが大切なのです。これは、私がいつも選手たちに話していることです。 いかに選手だけではなくて、私たちも含めた全体が一つのチームとなって、お互いしっかりとした共同作業をして、目標を達成するためにしっかりと進んで行く、それがとても大切なことだと思います。 大住氏:一番大事なのは、フィンケさんの浦和レッズというチームがフィンケ監督の下、選手もスタッフもクラブも一つの方向へ今、新しい方向へ向かったということだと思います。もしかすると結果はすぐには出ないかもしれないし、苦しい時期があるかもしれない。 僕は記者としても、「最初は我慢だぞ」と自分に言い聞かせています。そこで「我慢」という言葉を一つのキーワードにしたいと思いますが、フィンケさんはどう考えられますか? フィンケ監督:もちろん我慢することは大切ですが、私たち現場の人間、監督とか選手にしてみれば、「我慢できない」ということも非常に大切だと思います。なぜかというと、いつまでも我慢していてもいつまでたっても目的を達成できないこともありますから。できる限り成功したい、できる限り早く成功したいという強い気持ちを持って毎日の仕事に臨むことが大切です。もちろん自分たちが携わることが非常に長い道のりであることは、みんな理解しています。最終目的地点までは非常に長い時間がかかるかもしれません。しかし、しっかりとした成功を果たすためには、心の中では「我慢できない」ということも非常に大切なのではないかと思います。 大住氏:今年はほとんど補強がありませんでした。こういう状況でここを迎えたわけですが、補強なしでやっていくのはどういう決意ですか? フィンケ監督:どのような選手を買うべきか、あるいはどのような選手を買いたかったか、実際に獲得に動いたのか、そういうことは公の場で話すことはできません。私も今、そのことについてお話しすることはできません。しかし、根本的な考えとしては、自分にとってみればこの数週間で、このチームにどういう選手が所属しているのかということを見極めることがとても大切でした。選手を見極めずに勝手に新しい選手を連れてくるということは自分はやりたくはありませんでした。自分の考えとしてはやはり、できる限りこのチームに所属している選手に出場機会を与えることによって、彼らの実力を伸ばしていく、それが私にとってもとても大切なことだと思います。それにこの仕事の魅力的な部分でもあると思っています。 近い将来、いくつかのポジションのために、新しい選手を買うということも出てくるかもしれません。それはまだ一切、分かりません。もし、新しい選手を獲得したいということになったとしても、そのことについてはまずクラブの首脳陣の方とお話をして、どのくらいの予算があるのか、そしてどのくらいの選手を浦和レッズに引っ張って来ることができるのか、そのようなことをしっかりと話し合った上で、選手獲得が決まってから初めて皆さんにお話をしたいと思います。 しかし、私の方で、「あの選手を取らないと絶対にサインをしない」というような条件を出したことは今までに一回もありませんでしたし、今後も私はそのようなことは一切しないでしょう。 大住氏:いよいよ、今週の土曜日、3月7日からJリーグの新しいシーズンがスタートします。よくヨーロッパではサッカーの新しいシーズンを「アドベンチャー(冒険)」というように呼んでいます。フィンケさんと一緒に始まる2009年の浦和レッズの冒険はどのようになりますか? フィンケ監督:新しいシーズンに関して、私は、いつも「冒険」という言葉ではなくて「旅」という言葉を使っています。この日本という国に来たのも大きな旅でしたし、それなりに準備も必要でした。ではこのクラブにとってはどうでしょうか?実際に2008年の初めのころ、このクラブは新しい旅をしようとしました。彼らの場合は力のある選手が残っていて、それまでいい結果を残していて、できる限りたくさんのタイトルを取ろうという夢を持ちながらの旅でした。 しかし、この旅は残念ながらあまりいい形では終わらなかった。今シーズンの旅というのは、しっかりとした準備をした上で始めなくてはいけないと思っています。夢物語を語るわけではなくて、目標を考えて、そしてしっかりとしたステップを踏んで、そしてちゃんとした準備をして、この旅に臨みたい。そして今回の旅に関しては私たちのチームには非常にたくさんの若手選手もいるわけです。若手選手の中には、もちろん非常に優れた才能を持っている選手もいるわけです。積極的にこの若手選手たちに、試合に出るチャンスを与えていきたいと思っています。彼らが定期的に試合に出られるようになるかどうかは彼らのパフォーマンスにかかっています。 そして皆さんご存じのとおり若い選手というのは、やはり経験がまだないこともありますので、実戦の中でミスを犯してしまう場合もあるわけです。しかし、このことに対して毎回ミスを犯したから若い選手はもう使わないと言ったら、このチームの成長はありえません。ですので、できる限りミスが多くならないように私も努力をしていきたいんですけれども、ある一定のミスというのは許さないといけない部分もあるわけです。やはり失敗から学べることも非常に多いわけですから。 ですので、皆さんにも私の考えをたくさん話したいのですが、できる限り、若い選手たちの刺激がこのチームにいい方向性を与えてくれるのではないかと思っています。実際に若手の力というのはずっと必要なものだと考えていました。繰り返しますが、大切なのは日々のトレーニングの中でのパフォーマンスです。これがしっかりとしていれば、多くの選手たちが、長いシーズンの中で非常に多くの喜びを得ることができるでしょう。 ただし若い選手に関しては、もちろん年上の選手の方が素晴らしいパフォーマンスを見せていれば、若手の選手がたくさん出場することは難しくなります。もちろん実力主義ですから、自分の方が年上だから試合に出させてくれよということは一切ありません。 大切なのは、日々の練習の中でのパフォーマンスです。しかし、はっきり言えることはこのチームには非常に優れた若手の才能がいます。そして私自身もこうした若手が重要な仕事をするということに大きな喜びを感じています。ですので、このような若手の選手たちがいるのであれば、やはり彼らにもしっかりとしたチャンスを与えるべきだと思っています。実際今のチーム作りの中でも、選手のことをさらによくすることはできてきているわけですし、彼らの持っている能力を出さないというのは非常に残念なことだと思います。もちろんシーズンというのは長いですから、この中でさまざまなことが起こりえますし、もちろんその中で大切な試合というものも出てくることでしょう。 しかし、できる限り若い選手たちにもチャンスを与えることによって、このチームを活性化していって、最終的にいい結果を出すことができればなと思います。しかし皆さん、チームの平均年齢を落とす作業というのがたった1シーズンでできるとは思わないでください。それは数年間に渡ったクラブのやり方、どのような選手を取ってくるかという方針によってすべてが決まるわけです。ですから今後も、例えば30歳、31歳、32歳の優れた外国籍選手を獲得してくるのか、あるいは、日本、もしくは国外で、23歳以下の優れた選手がどこにいるのか、そういう選手を発掘して来て、このチームの一員として活躍させるのも一つのやり方ではないかと思います。 ですので、1シーズンで平均年齢を一気に落とすということはできません。数年に渡って行なわなくてはいけない一つのプロセスなのです。今後のやり方としましても、選手を買ってくるのか、あるいは国内のマーケットを見てどれだけ優れた選手がいるのか、そのようなことをしっかりと把握して、質の高い若手選手を引っ張ってくればチーム全体のレベルを押し上げることができるわけです。 大住氏:2009年の浦和レッズの旅がいい旅になるように祈っています。ありがとうございました。(第2部終了) ※掲載内容は、実際の発言の主旨を変えない範囲で、変更している箇所があります。 |
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